高木 愛 稿「国税通則法74条の11第2項に規定する調査終了手続が違法となる場合―近年の裁判例の動向を踏まえて―」

高木 愛 稿 (青山学院大学大学院 院生)
「国税通則法74条の11第2項に規定する調査終了手続が違法となる場合―近年の裁判例の動向を踏まえて―」

 本論文は、国税通則法74条の11第2項の調査終了手続(「結果説明手続」と呼ぶ)が違法となるのはどのような場合かについて、判例、学説を分析したものである。

 第1章では、当該規定に関して争われた近年の裁判例を取り上げて、結果説明手続が違法となる場合の判断基準の不明確さ、違法となる場合の課税処分に与える影響が明確でないことを指摘する。第2章は、当該規定と通則法改正の概要を確認する。第3章では、租税法律主義、申告納税制度を確認し、結果説明手続が納税者に修正申告等の機会を与える点で重要な意義を有するとする。第4章では、裁判例及び学説を検討し、第5章では、違法な結果説明手続から課税処分が取り消されるケースを考察する。

 筆者は、修正申告等の機会が実質的に失われたと評価される場合に、違法手続があったとして、処分の取消事由となると解すべきであると結論づける。

 本論文は、必ずしも多くない判例分析から、①結果説明手続が違法となる場合の判断基準、②違法な結果説明手続きの課税処分への影響のそれぞれについて問題提起したもので、問題意識は明快である。

 筆者は、平成23年12月の国税通則法改正前後の裁判例を分析し、重大違法限定説を否定した令和4年東京高判の考え方が、この問題解決の最適な判断基準となると主張し、「自ら納税義務の内容の確定を行う意思のある納税義務者の修正申告等の機会が実質的に失われた」場合に説明義務が果たされなかったとしており、先行研究、関連裁判例を十分にフォローし、的確な分析から論理的に結論を導き出している点は高く評価できる。結果説明手続を論ずるのに租税法律主義という税法の基本原則やその下での申告納税制度の意義にまで立ち返って検討し、同手続を、納税者の自主性・主体性が尊重される修正申告の「機会」を納税者に与える重要な手続として位置づける点にも独創性と説得性が認められる。

 しかしながら、令和4年東京高判が比較的明確な基準を示しているとしても、個別事例の事実関係はそれぞれ異なるため、それを判断基準とすることについて、適切といえるかどうかは疑問が残る。具体的には、納税者の意思をどのように判断するのか、実質的に失われたとはどのような場合かは不明であり、この問題解決には、さらなる判例の集積を待つべきものと思われる。筆者の分析はその一部をとりあげたにすぎず、一般化するには課題が残るが、租税資料館奨励賞に相応しい論文であると評価できる。

論 文(PDF)