平野 雄大 稿「所得税における重加算税の研究―隠蔽又は仮装行為の類型化―」
平野 雄大 稿 (青山学院大学大学院 院生)
「所得税における重加算税の研究―隠蔽又は仮装行為の類型化―」
本論文は所得税申告における、いわゆる「つまみ申告」への重加算税賦課要件とされる「特段の行動」類型化を試みる。これは「積極的な行為」が認められないケースで、重加算税賦課が相当だと判断される際のメルクマールである。論文は、第1章で重加算税制度の沿革と現行法令での取扱いを確認した後、第2章で平成6年、7年の最判とそれ以前の判例をそれらに関する学説とともに考察する。第3章は平成7年最判以降の判例および採決例から、「特段の行動」を8形態に分類し、第4章ではそれらをフローチャートに整理している。
問題設定やその意義づけは明確である。「特段の行動」にしろ「積極的な行為」にしろ、抽象的な概念であるため、語義論的な検討だけでは、納税者の予見可能性に資するような有益な研究成果は期待できない。その意味で、過去の判例や採決例から演繹的にその内容を明らかにしようという姿勢と、そしてその結果、「特段の行動」は8つ―①税理士に対する秘匿、②税理士以外に対する秘匿、③他人名義等の使用、④帳簿書類の破棄、⑤意図的な無記帳・過少申告等、⑥提出書類への虚偽記載、⑦そのほかの行為、⑧税務調査時の虚偽答弁・調査費協力等-に類型化できるとした知見は評価に値する。
学説と判例を丁寧に整理している。特に、系統的にインターネット検索をかけて関連する判決・採決を見つけ出し、その中から「特段の行動」を類型化し、表やフローチャートにまとめるという研究手法はユニークである。こうして得られた「成果物」は、学術的にはともかく、実用的には価値が認められる。
一方で、いくつか難点・改良すべき点も認められる。
1)まず、論文の副題が「隠蔽または仮装行為の類型化」となっているが、「隠蔽または仮装行為」のうち、「積極的な行為」を伴わない、いわゆる「つまみ申告」に特化しているのであるから、副題の表現は広きに失する。
2)判例や学者の見解を、関連性が低い箇所も含めてそのまま引用しているところが多くみられる。正確性や前後を含めたcompletenessは大切であるが、その結果、特に第2章において、叙述が冗長に感じられる部分があった。論文の記述は筆者独自の叙述が基本であるので、こうした全文引用を過度に行うのは控えるべきであったろう。
3)また、法令の条文を鉤括弧に入れずに引用する箇所が散見されるが、読みにくい。
4)第4章第2節「用語の意義の整理」は基本的な事項なので、論文構成上、もう少し早い段階(1,2章)で行うべきであった。
但し、こうしたことを考慮しても尚、本論文は租税資料館奨励賞としては力作であり、高い評価に値すると判断する。