廣島 元彦 稿「積極的な不正行為がない場合の重加算税の賦課についての一考察―重加算税と逋脱犯の比較を中心として―」
廣島 元彦 稿 (産業能率大学大学院 院生)
「積極的な不正行為がない場合の重加算税の賦課についての一考察―重加算税と逋脱犯の比較を中心として―」
今日、政府による奨励やシェアリングエコノミーの普及により兼業・副業が広がり、重加算税の賦課対象になる無申告事案が増えている。そうした中、本論文はその賦課要件が曖昧になっているという問題意識のもと、「積極的な不正行為」を伴わない場合の重加算税賦課の要件を明確にすることを目的とする。そのために、本件に関する重要判決の検討と、近接する逋脱犯事件との比較を行う。第1章では重加算税制度の沿革と概要を述べ、第2節では積極的な行為が認められない事案の判例研究を展開する。第3章では、逋脱犯の概要と判例研究を行う。そして、それを踏まえて第4章で重加算税の賦課要件の検討を行い、導いた、「積極的な不正行為が認められない場合であっても、過少申告を意図し、それが外形的・客観的に立証可能であれば、重加算税賦課は認められるべきである」との結論は説得力に富む。
本論文は、論旨が明快で展開がよく整序され、丁寧に仕上げられている。論文の構想を入念に練ったうえで執筆していることが推量される。また、各箇所での検討を学説・判例等の正確な理解に基づき、丁寧に纏めつなぎながら論旨を展開していることは、筆者の論文作成技術の高さを示唆している。逋脱犯事件との比較にも本論文の独創性が表れている。
一方で、改良点もいくつか指摘しておく。重加算税賦課要件を「積極的な不正行為」という語と強く関連付けて論ずる以上、そのことの意義をより明確に示すべきであった。すなわち、この語は判例が「隠蔽または仮装」をいわば置き換えて用いているものであり、付随して学説等でも多用されるに至っている概念である。そうであれば、そのことを判例や学説をより多く紹介し、読者に提示すべきであった。また、最高裁平成7年判決は「積極的な行為」に代わって「特段の行為」という語を用いたが、この「積極的な行為」についても同様のことが言える。「積極的な行為」も「特段の行為」も抽象的な概念である。単なる語義論的検討を超えて、具体的な内容を過去の判例から抽出することをもっとしてほしかった。
書き方では、文言の解釈が重要な論点なので、法律等の条文は論文中に転記した方がいい。また、裁判例の紹介の際、判決文を単に鍵括弧をつけて引用している箇所があるが、フォントを変えたり、インデントを用いたりするなどしてそれが判決文の一部であることをより明確に示すべきであった。また、判例の紹介においては、長すぎない程度に事実関係を記載することも重要ではないか。
こうした改良点を考慮しても、租税資料館奨励賞に値する論文であると判断に至った。