安森 貴史 稿「デジタル社会における電子帳簿保存法の現状と課題―機能的展開を中心として―」

安森 貴史 稿 (西南学院大学大学院 院生)
「デジタル社会における電子帳簿保存法の現状と課題―機能的展開を中心として―」

 本論文の目的は、「ガバナンスを意識しつつ、租税原則である『中立』と『公平』の分析視座により、『負担の軽減』と『適正公平な課税』のバランスの観点」から、電子帳簿保存法の本質と社会的役割を明らかにすることにある。

 本論文は5章から構成される。第1章では、商法(会社法)と租税法との制度関連性を対象とした分析視座を示した上で、商法(会社法)の帳簿規定と個別税法の帳簿規定との関連性、および個別税法の帳簿規定と電子帳簿保存法の帳簿規定との関連性を概観している。第2章では、個別税法と電子帳簿保存法の制度的枠組みと現状を概観している。第3章では、紙帳簿の時代における制度変遷の通時的分析が行われ、青色申告制度は、「第1の道」(「国家の役割を重視した価値判断による『公平』への傾斜、国家による演繹的アプローチによるガバナンス」)からスタートし、その後、「第2の道」(「市場の役割を重視した価値判断による『中立』(負担の軽減)への傾斜、市場による帰納的アプローチによるガバナンス」)への制度変遷と捉える。第4章では、電子帳簿保存制度の創設後における制度変遷の通時的分析が行われ、電子帳簿保存制度は、「第1の道」からスタートし、その後、「第2の道」への制度変遷と捉える。第5章では、2021(令和3)年度税制改正に焦点をあて、電子帳簿保存法の共時的解釈と分析評価が行われ、電子帳簿保存制度は、「第1の道」からスタートした制度から、「第2の道」への制度変遷と捉えられるものの、「正規の簿記」の実質的義務化などは、「第1の道」への傾斜と捉えることができ、現行制度は「第1の道」への中途の制度設計か、「第3の道」への制度設計か、今後の動向を見極める必要があるとされる。

 本論文は、電子帳簿保存法を、デジタル社会の帳簿記帳保存体制のガバナンス制度とみなし、その体系化を試みた力作である。特に、次の3つの道による分析視座は独創的である。「第1の道」(有機的国家観に基づく公平の観点)、「第2の道」(社会契約説的国家観に基づく中立の観点)、および「第3の道」(第1の道と第2の道を均衡した相互主観による観点)がこれである。また、文献は適切に引用され整理されており、電子帳簿保存法を機能面から体系化する試みは、ユニークである。本論文の特質すべき点は、電子帳簿保存法という税法制度を追いながら、その考察を単なる租税法の制度設計や解釈・適用などの技術的問題に止めず、国家観に基づく価値判断の次元にまで高めている点に特徴があり、今後の研究にも示唆を与える論文であると評価できる。

論 文(PDF)