吉川 純一 稿「法人税法の観点からみた金融商品会計に係る一考察」

吉川 純一 稿 (筑波大学大学院 院生)
「法人税法の観点からみた金融商品会計に係る一考察」

 本論文の問題意識は、「公正処理基準の意義が明確に規定されていない結果、企業会計上は妥当な処理であっても、納税者による課税所得の計算が不安定な状態となり、取引の発展が阻害される懸念がある」とするものである。

 本論文は8章から構成されており、その内容は次のように集約できる。
(1) 公正処理基準について、その意義・範囲・位置付け・企業会計との関係性・判断基準の5つの視点から、各論者の論説を整理し、筆者の見解を提示している(第1章)。
(2) 会社法、金融商品取引法、国際会計基準、米国会計基準の観点から、公正処理基準を整理している(第2章)。
(3) 「不動産流動化事件」で提示された「税会計処理基準」について、先行研究を比較分析している(第3章)。
(4) 「債権流動化事件」について、原審判決と控訴審判決を比較分析し、法的実質の観点から、「権利確定主義」「税法上の『取引』」「評価技法の妥当性」を整理し、判例分析を通じて、公正処理基準の妥当性を判断するための3要件を提示している(第4章~第6章)。
(5) 金融商品会計に係る2つの事例分析によって、上記(4)が、金融商品会計の一般な論点となりうる可能性を指摘している(第7章)。

 以上の議論を踏まえ、本論文では、新たに「法人税基本通達2-3-71」(公正価値評価算定における評価損益の取扱い)を発遣し、「公正価値評価算定における評価損益の取扱いを追加し、公正価値評価算定から生じる損益は評価損益に該当するため、課税所得の計算上、申告調整の対象となることを明確化すること」を提言している。

 本論文の論旨は明快であり、論述は分かり易い。また、参考資料は広範に渉猟され、十分に整理されている。しかし、債権流動化事件はかなり稀な訴訟事件であることから、新たに会計基準が公表されたとき、企業会計と法人税との摺り合わせで対処することも考えられるものの、「経済的実質を重視する企業会計の借用には限界がある」とする論者の主張は説得的であり、先行研究の緻密な分析・整理とともに、十分な思索を踏まえた法人税基本通達の修正提言は一定の評価ができる。

論 文(PDF)