酒井寛志 稿「法人以外の事業形態に対する課税に関する研究 ―新たな事業体における「損益の帰属」の視点から―」

酒井寛志 稿「法人以外の事業形態に対する課税に関する研究 ―新たな事業体における「損益の帰属」の視点から―」

(拓殖大学大学院 院生)

 本稿は任意組合、匿名組合、外国事業体等の法人以外の事業形態に対する課税問題につき、特に「損益の帰属」という要素に視点を当て考察を行ったものである。

 我が国では、任意組合等の事業形態に対する課税については、利益及び損失が法人ではなく構成員に直接帰属する、パススルー課税という課税方式が適用される。しかしながら、この課税方式をめぐる我が国の税務上の判断基準は明確になっていない。例えば、組合契約において出資持分とは異なる利益持分を定めた場合、その損益の帰属割合は無制限に認められることになるのか。あるいは、外国事業体が我が国においていかなる場合に法人課税、あるいはパススルー課税となるのか等の判断基準は明確にされていない。組合課税に関しては、平成17年度税制改正による組合損失制限規定と国税庁からの通達が若干あるにすぎない。こうした現状は、納税者の予測可能性や法的安定性を害するだけでなく、巧妙な租税回避の発生を許すことにつながるため、著者としては一定の具体的基準を法令上明らかにする必要があるとし、いくつかの提言を行なっている。すなわち、まず、パススルー課税の実体規定の制定を行ない、どのような事業体にパススルー課税を適用するかを立法的に明らかとすべきとしている。次に、出資持分と異なる利益持分を定め、「損益の帰属割合」を変更することに対しては、経済的合理性が必要とされるが、その経済的合理性の具体的判断基準に米国内国歳入法704条(b)の「実質的経済効果基準」を参考にした一定の規制を法令等に明示すべきであるとしている。また、外国事業体の我が国における性質決定の問題については、基本的に、我が国私法ないし外国私法に依存(形式基準)しながらも、法人課税とすべきかどうかについての、最低限の法的効果の観点からの検証基準の制定とこうした事業体についての我が国租税法上の取り扱いに関する事前確認制度の導入を提唱している。

 本稿では、近年その活用が顕著になりつつある、様々な事業や投資のビークル(多様な事業体)が典型的な法人でも個人でもないといった性格に由来する課税問題、とりわけパススルー課税という課税方式をめぐる問題がとりあげられている。著者は法人課税の課税根拠からはじめて、ビークルの様々な類型についての私法上、課税上の取り扱い、さらにはビークルを通じた租税回避に対する米国の取り組み状況や外国法に基づくビークルの我が国における課税上の取り扱いをめぐる裁判例等について、丁寧な検討、分析を加えている。とりわけ、米国の取り組みについては、かなり踏みこんだ検討が行われており、それが著者の提言の説得力を高めることとなっている。また、著者の各問題に対するアプローチは先行研究を網羅的に検証しており、論文の行間から、著者自身の豊富な研鑽が伺える文章となっている。

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