扶持本泰裕 稿「法人課税信託における租税回避への対抗策 ―外国信託を利用した複層化スキームによる租税回避への対抗策―」
本稿は、平成19年度税制改正において信託税制が大幅に改正されたことに対応し、当該信託税制のあり方を論じるものである。特に、当該税制改正前から信託を利用した租税回避スキームが多発していることと、当該税制改正において、法人課税信託制度が創設されたことに着目し、本稿の副題について、「外国信託を利用した複層化スキームによる租税回避への対抗策」と付し、法人課税信託の活用の重要性を強調している。 このような観点から、本稿は、次のように構成されている。 第1章 信託の意義、本質及び課税 第2章 法人課税信託に関する課税上の問題点 第3章 諸外国の信託の課税ルール 第4章 法人課税信託における外国信託を利用した租税回避に対する対抗策 以上のように、本稿は、平成19年の大改正によって実務上も大きな関心が持たれている信託税制について、私法上の信託制度を検討した上で、信託税制に関し、我が国の平成19年改正前後の税制を検討し、それに対応する主要諸外国の信託税制と比較し、現行税制における課税のあり方について提言するものである。このような論述においては、多くの参考文献を検証し、約120頁にわたって詳細な検討を行ったものであり、修士論文としては、労作として評価できる。 しかしながら、その結論においては、やや説得力を欠く。けだし、信託課税においては、現行の法制上、受益者課税が原則で、法人課税が例外であるから、当該法令の適用上、「受益者」が誰であるかを優先的に検討することは当然であり、そのことを単純に拡大解釈と決めつけることはできないはずである。 また、米国の「グランタートラスト」基準を採用すべきと説くが、そこにも論理の飛躍があって説得力を欠く。よって、これらの諸問題について、研究を重ねていけば、一層優れた論文になるはずである。 論 文(PDF)・・・・・・1.51MB |