小林 則子 稿「DESにおける債務消滅益課税のあり方について」

小林 則子 稿
「DESにおける債務消滅益課税のあり方について」

(税理士/早稲田大学大学院 院生)

 本論文は、デット・エクイティ・スワップ(以下DESという。)により、債務者である法人において生じた債務免除益(債務消滅益)に課税が及ばないようにする方策を、解釈論と立法論の両面から検討するものである。

 DESは、経営不振に陥った企業を再生する手段として有効であるが、課税取扱いが必ずしも明確でないことから、その積極的活用が進んでいない面がある。それは、DESは不良債権処理の一手段として債務免除と組み合わせて行われることが多いので、この債務免除益に課税が行われれば、十分な財務支援としては機能しなくなるからである。

 筆者は、第1章でDESを債権の現物出資と捉えた上で、その会社法及び租税法上の取扱いについて整理を行い、DESによる債務免除益が認識されることを認めた上で、第2章においてDESにおける債務消滅益を資本等取引として損益計算から除外できるかどうかを検討するが、資本等取引と認めると、その債務免除益は完全に課税対象から除外されてしまい、課税の公平の観点から適正でないばかりか、租税回避手段として利用されるおそれもあるので適当でないという。そこで、第3章において、米国における課税取扱いを参考に、我が国においても、債務免除益に対応させる租税属性を繰越欠損金と期限切れ欠損金に限定することをやめ、あらゆる租税属性を適用できるようにすべきであり、それでもなお控除しきれない残額が生じる場合には、会社更生、民事再生その他の私的整理等の場合を問わず、課税繰り延べを認めれば、企業再生と課税の公平が達成できるのではないかと提案している。

 DESの課税問題については、既に様々な先行業績があるので、本論文が極めて斬新なものといえるわけではない。しかしながら、本論文は、どのような条件においてDESが行われると、どの程度の債務免除益が生ずるかを実証的に分析し、利益が生ずることを認識した上で、租税を減免すべき場合とその法的解釈のあり方を検討している点で合理的でかつ信頼しうる内容となっている。米国の課税手法との対比については、もう少し踏み込んだ分析が必要であるとは思われる。今後の研究の進展に期待したい。

論 文(PDF)・・・・・・880KB