山本茂 稿「公売促進に向けた一提言」

山本茂 稿
「公売促進に向けた一提言」

(東京国税局徴収部特別国税徴収官)

 滞納処分による差押財産の公売の現状は、売却率が特に不動産について低調であり、結局、滞納者の財産を差し押さえても適時・的確には売却できず、国税の確実な収納も確保できていない状況にある。本論文は、公売がうまくいっていない現状はなぜ起こっているのかをまず分析し、これに対して民事執行における競売不動産の売却率が好調であることから、不動産競売との比較考察を行い、さらに公売制度の趣旨や改正の経緯を歴史的に遡って考察することにより民事執行との違いを浮き彫りにした上で、公売促進に向けて、手続の簡素・合理化及び買受希望者の利便性にも資するよう、制度・執行の両面における公売の改善策を提案している。具体的な改善策としては、(1)差押財産の換価の方法は、競争公売(従来型の公売)を原則としながらも、特別公売(随意契約による売却)も緩和する、(2)競争公売の方法は、入札と競い売りに代えて、一回投票方式と順次競い上げ方式とにする、(3)公売の連続的実施を可能とする、(4)見積価額も市場性減価を反映させ適正化することを提案している。

 国税の滞納整理は、滞納者と他の納税者との課税の公平の確保の観点から重要であり、公売制度の効率的な運用が不可欠であるとの明確な意識により、本論文の内容は構成されている。

 本論文は、筆者の実務経験に根ざしたこの強い問題意識に基づき、国税徴収法、民事執行法の制度内容の違いを立法史的観点を踏まえながら、よいところを吸収する方策を工夫し、さらに公売実務や背景にあった形で、いわば法社会学的な分析に沿った具体的な改革案を示している点に特色がある。あまり類書や先行業績のない分野について、理論と実務を融合する法実践的研究を行っている点で優れていると評価することができる。

 望むらくは、実証的な数値を用いた論証がなされていれば、よりいっそう説得力を増したのではないかと思われ、この点が今後の課題であると思われる。

論 文(PDF)・・・・・・1.29MB