大貫貴博 稿「法人税法におけるファイナイト保険の課税問題」

大貫貴博 稿
「法人税法におけるファイナイト保険の課税問題」

(亜細亜大学大学院院生)

 本論文では、近年、日本においてファイナイト保険の取引が行われるようになったが、今までの伝統的な保険で行われてきた会計や租税の慣行が適用できず、利益操作や租税回避に利用される恐れがあることから、ファイナイト保険の取引に係わる税制上の整備が必要であると提言している。

 本論文の構成は次の通りである。

 第1章は、ファイナイト保険を検討するにあたって、保険取引の現状と保険論の観点から位置づけを整理している。第2章では、法的側面からファイナイト保険の位置づけを明らかにすることを目的として分析を行っている。第3章では、親会社が子会社と結んだ再保険契約に係る支払保険料のうち、子会社が結んだファイナイト再々保険契約の支払保険料となった費用について、親会社の支払保険料の損金の該当性を否認するものとはならないとした判例を用いて、ファイナイトの課税問題の分析を行っている。最終章では、ファイナイト保険が租税回避に用いられるスキームとして利用されることを回避するための指針を提言している。

 ファイナイト事件の判例を分析、考察することによって、法人税基本通達9-3-9の限界を述べ、またタイミングリスクのみが移転するファイナイト保険を費用として計上することを認めると、利益の多いときに費用を過大計上し、課税所得の少ないときに収益として回収する等、利益操作や租税回避に用いられる余地が残ってしまうので、第三者が検証可能なアンダーライティング・リスクが相応に移転している場合に限って、ファイナイト保険を保険契約として認め、逆に損害の全てを保険契約者が負担するようなアンダー・ライティングリスクが移転していないファイナイト保険の支払保険料は費用として計上することは認めず、資産として計上すべきとの結論を下しており、論理に矛盾がない。

 本論文においては、はじめに租税回避ありきとの論調で、形式基準でもって費用とするか資産とするかの判断を下しているが、租税回避の意図が無くとも費用として計上することに合理的理由の存する場合もあるのではないか。しかしこれは評者の浅学によるもので、誤りかもしれない。いずれにしても、その具体的な形式基準についてさらなる分析が必要と思われる。

 ファイナイト保険の課税問題については先行研究が少なく、資料・文献についても十分に当たっており、説得力のある論文として十分に評価に値しよう。

論 文(PDF)・・・・・・1.08MB