奥本 慎司 稿「デット・エクイティ・スワップ(DES)における債務免除益と課税 ―中小企業再生のためのDESの考察―」

奥本 慎司 稿「デット・エクイティ・スワップ(DES)における債務免除益と課税 ―中小企業再生のためのDESの考察―」

(名古屋商科大学大学院 院生)

 本論文は、中小企業の経営再建にあたって、DES(Debt Equity Swap=債務の株式化)の利用を阻害している法人税法上の問題点(債務免除益課税)について、その解決策を提言するものである。論文構成は以下のとおりである。

 第1章において、DESの概要、法的位置づけ、会計処理について概観し、第2章において、現物出資型DESと金銭出資型DESにおける税務上の問題点、現物出資型DESにおける債務免除益の問題について整理している。

 第3章においては、第1節「法人税法上、DESによる債務免除益が課税とされた判例」と、第2節「所得税法上、債務免除益が非課税とされた判例」の2つの裁判例を取り上げて、債務免除益が法人税法と所得税法とで取扱いを異にする点について比較検討している。

 第4章では、中小企業基本法からみた中小企業、所得概念と個人保証制度からみた中小企業と個人の異同、中小企業再生のためのDESについて考察し、一定の条件を備えたDESから生じる債務免除益については非課税とする税制の創設を提言している。

 筆者は、企業再生にDESの活用が期待されているにも関わらず中小企業での利用が進まない最大の要因が、法人税法上の債務免除益課税の存在であるとして、その解決策を提言している。具体的には、経営者が個人保証をしている中小企業が、法的整理や一定の私的整理の過程で、第三者と実行したDESから生じる債務免除益については、非課税とする制度の創設を提言している。

 中小企業は規模も態様もさまざまであるが、筆者は、法人の実態が個人に近づくほど個人保証をしている割合が高いことを、中小企業実態調査や国会審議を引用して説明している。筆者は、上場企業におけるDESの活用との比較を通して、所有と経営が分離していない中小企業におけるDESの問題点を考察している。DESによる債務免除益が、法人税法上、課税された判決と、所得税法上、非課税とされた判決を取り上げ、法人と個人との課税上の取扱いの差異について公平性の観点から問題としている。また、実質的に債務超過状態に陥っている者に対して課税することは、担税力に応じた課税という税の目的にも適わないものである。会社法、旧商法、中小企業基本法、民事再生法、会社更生法、民法、法人税法、所得税法の法令や会計処理についても丁寧に概観するとともに、問題点を分析している。

 本文は58頁とボリュームは多くはないが、脚注において用語の説明や学説の紹介を行うなど、項目毎にポイントを押さえた簡潔な論文であり、筆者の思考過程がわかる読み易い論文となっている。

論 文(PDF)・・・・・・626KB