柴田 重樹 稿「スクイーズアウト税制における適格要件の合理性判断規準の考察 ―課税繰延べ理論の限界と境界―」

柴田 重樹 稿「スクイーズアウト税制における適格要件の合理性判断規準の考察 ―課税繰延べ理論の限界と境界―」

(大阪経済大学大学院 院生)

 平成29年度の税制改正でスクイーズアウト税制が導入されたが、本論文の目的は、同税制がわが国組織再編税制における課税繰延べ理論にどのように位置付けられるのか、課税繰延べが認められる組織再編成と否認されるべき組織再編成との境界はどこにあるのか、という疑問への解答を明らかにしたうえで、課税繰延べ理論と租税回避の二つの側面から、スクイーズアウト税制における適格要件の合理性判断基準について検証することにある。

 1「組織再編の意義」、2「スクイーズアウト税制の適格要件の射程」、3「課税繰延べの理論に関する判例法理」、4「適格要件と租税回避否認の基準」の4章にわたる分析・検討を行った結果、筆者は、次の結論に到達している。

 ①スクイーズアウト税制に組み込まれた組織再編のうち、金銭交付型の株式交換等に関しては、M&A(企業買収)の性質を有している。②組織再編税制における課税繰延べ理論の根拠は非常に不明瞭である。③組織再編税制における租税回避否認規定である法人税法132条の2も、必ずしも明確でない。④上記3つの理由から、租税の予見可能性や中立性が損なわれている。⑤これらの問題を解決するには、組織再編税制の課税繰延べ理論を明確にすべきであるが、わが国の組織再編税制は米国に比し、歴史も浅く、非常に困難である。米国の組織再編税制のように、対価要件に関しては、組織再編の類型毎に定めるべきである。

 平成29年度税制改正においては、スピンオフ税制の創設や、スクイーズアウトにおける課税上の取扱いの整理、適格要件の見直しなど、M&A取引に大きな影響のある改正内容が盛り込まれた。スピンオフ税制が創設されたことにより上場会社における事業再編成が活性化することが期待されると評価する向きもあるが、筆者は、適格要件が整理されたことを評価しながらも、組織再編税制の課税の繰延べ理論の根拠の不明確さを含めて、租税回避否認規定についても課題を抱えていることを指摘する。

 筆者の導き出した結論での指摘は、特に目新しい指摘とはいえないが、カレントなテーマに正面から取り組んだ論文として、十分に評価できよう。論文作成に当たり、問題意識を明確にもって課題に向きあおうとする姿勢や、豊富な文献を引用しつつ、明快に論述しているところなども、大いに評価して良い。課税繰延べ理論と租税回避の二つの側面から、スクイーズアウト税制における適格要件の合理性判断基準の検証をしようとする筆者の目的は、十分達成できているのではあるまいか。全体に好感の持てる論文で、この種の問題に取り組もうとする人たちに対しても、とても良い刺激を与えることができると信じる。ただ、若干気になるのは、筆者の意見を展開するに当たって、他者の見解(引用文献)に依拠する部分が目立つ点である。自らの目を信じ、自分自身が主体となって検証を行っていたならば、筆者の論じるところも、もっと説得力を持ち得たのではなかろうか。

論 文(PDF)・・・・・・1.00MB