奥居 寛生 稿「従属代理人PEの帰属利得算定方法に関する一考察」

奥居 寛生 稿
「従属代理人PEの帰属利得算定方法に関する一考察」

(立命館大学大学院 院生)

 国際的な事業を展開する企業の中には、課税を回避するため、恒久的施設(PE)に該当することを避けようとして、国際的な組織再編を利用して、コミッショネアのような事業形態を選択するケースが増えている。国際的な組織再編で生み出される新たな事業体を用いることで代理人PEの認定を回避しようとする租税回避行為に対処するため、OECDのBEPS行動計画7が策定され、2017年には、OECDモデル租税条約の改訂で、代理人PEの範囲を拡張する修正が施された。本論文において筆者は、この条約改正によっても代理人PEの帰属利得の算定に関しては、新たな問題が生じてくるとの問題意識をもっており、この問題意識に基づき、筆者は、望ましい代理人PEの帰属利得の算定方法を模索しようとする。

 筆者は、第1章において代理人PEに関する問題の所在を提起したうえで、第2章において、代理人PEの帰属利得の算定方法についてのOECD承認アプローチと国内法における帰属利得算定方法とを紹介する。そこでは、OECDのレポートを用いて、single taxpayer approachとdual taxpayer approachとの比較分析や、モデル租税条約第9条のリスク分析と第7条のリスク分析とを比較する作業を行う(筆者は、第9条の適用では認識されなかった利得が第7条の適用によって存在する可能性があるため、dual taxpayer approachの方が望ましいとする)。第3章では、dual taxpayer approachを用いつつ、2016年ディスカッション・ドラフトを活用した数値例を検討する作業を行っている。その結果、非居住者企業と代理人PE間の利益配分を行う算定方法は、損益状況にかかわらず代理人PEに帰属する利益の額を算定する第7条の目的に反していることなどを指摘する。これらの分析、検討の結果として、筆者は、第4章において、第9条の適用を優先すべきことと共に、第9条において認識されたリスクは第7条の適用段階では認識しないとすべきことを提言している。

 国際的な課税関係についてはとりわけそうであろうが、最新の税制の動向を踏まえた論文の執筆には何かと困難を伴う傾向がある。その中で、本論文は、2015年のBEPS最終報告書公表後において積み残された検討課題である従属代理人PEの帰属利得算定方法のあり方に着眼して、正面から課題に取り組んでいる。着想自体は浅妻章如氏の論文に触発されたかと思われるが、着想のよさ、目的の明確さ、明快かつ適切な論旨の展開の仕方などの点において際立っており、好感を覚えた。第1章および第2章において先行研究に相応の目配りがなされている点も評価できる。第3章の、OECDのディスカッション・ドラフトを用いて論じている部分が、本論文の実質的な中心であろう。その際にも、ディスカッション・ドラフトを丁寧に引用し、参考にする手法は十分評価できる。もっとも、その一方では、本論文がディスカッション・ドラフトに頼りすぎているような印象を与えることは否めない。しかし、ディスカッション・ドラフトを用いて丁寧に数値例を検討する手法を含めて、本論文は、実証的、独創的研究として十分に評価することができる。

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