岩瀬 友亮 稿「移転価格税制と関税評価制度の交錯」

岩瀬 友亮 稿
「移転価格税制と関税評価制度の交錯」

(立命館大学大学院 院生)
平成31年3月 立命館大学大学院『社会システム研究』第38号掲載

 筆者に拠れば、「移転価格税制と関税評価制度は、輸入価格への評価において交錯する」。すなわち、輸入貨物の取引価格が適正時価に対して高価になればなるほど法人税の減少と関税の増加を招くが、反対に、低価になればなるほど法人税の増加と関税の減少を招くことになる。言い換えれば、輸入する納税者にとっては反対方向に税負担が傾くことになる移転価格税制下での独立企業間価格と関税評価額との関係について、最近の国際判例(移転価格の下方修正に伴う関税の還付請求を認めなかった浜松ホトニクス事件に関するEU裁判所判決)などを参考にしながら検討を行う。

 輸入取引後の移転価格調整は、上方と下方の両方向で行われるが、筆者の問題意識は、輸入取引後に生じた移転価格調整に対する関税評価において納税者が一方的に不利益を被っているにもかかわらず国内での研究には進展が見られない、ということにある。その状況を打開するため、筆者は、近時の議論を参考にしながら、わが国の移転価格税制と関税評価制度にとっての望ましいあり方を模索する。

 本論文の全体の構成は、本論部分の四章と、研究の目的を述べる序章、それに韓国流のMOU(了解覚書)の締結と、国内APAと事前教示制度の同時申請制度の導入を提案する終章とからなる。

 本論の第1章では、移転価格と関税評価の仕組みの違いを述べた後、輸入後の移転価格調整により生じる納税者の不利益への対応の必要性を指摘し、両制度の差異調整の必要性を求める最近の国際機関による提言の紹介を行う。第2章では、WCOで検討された「販売に係る状況の検討テスト」における移転価格分析方法の活用を肯定的に紹介する一方、APAに基づく移転価格の補償調整に対して関税の還付請求を認めなかったEU裁判所判決の批判的紹介をする。第3章で筆者は、関税評価制度上、移転価格分析を活用している米国と韓国の仕組みを採りあげ、移転価格による事後的な下方修正があった場合にも、それを反映した還付を可能とすべきことを提言する。第4章では、上記検討を踏まえわが国でも、価格調整条項に基づく下方調整(還付)を認める方向で検討すべき旨を提言している。

 わが国の関税サイドからも、事後的な補償調整が移転価格上行われたときに関税評価額に反映させるべきかどうかという形で検討されてきていた。筆者は、実際に金銭等の授受が行われる様な移転価格調整については、上方修正・下方修正を問わず関税評価制度上で考慮されるべきとの立場に立ちながらも、下方修正については、米国、韓国の制度の一部採用や、その実施に向けた国税と関税の両当局間の関連情報交換の必要性を強調する。筆者は、追徴額発生時のみ、移転価格による調整の関税への反映が認められている現状に対して疑問を持ち、先行研究や国際機関での検討状況、判例等についての比較法的考察など、適切な手順を追った丹念なリサーチに基づき結論に到達している。各パートにおける検討には、今後も深堀をする必要性や余地は認められるものの、テーマ選択の斬新さと関税の「販売にかかる状況の検討テスト」からスタートするという検討方法など、一般の税法論文の枠組みにとらわれないアプローチもみられる。論旨の明快さからみても、租税資料館奨励賞授賞に十分値する。

論 文(PDF)・・・・・・853KB