寺田 暁央 稿「無形資産取引における独立企業間価格算定方法 ―東京地裁平成29年11月24日判決を素材に―」

寺田 暁央 稿「無形資産取引における独立企業間価格算定方法 ―東京地裁平成29年11月24日判決を素材に―」

(青山学院大学大学院 院生)

 本論文で筆者は、現行移転価格税制で国外関連者との間での無形資産取引に対する独立企業間価格算定方法として、「残余利益分割法」を最も適切な算定方法であるとしている。それは最近の無形資産取引での判決(東京地裁平29.11.24)を検討することで導き出された結論でもあるが、筆者自身、残余利益分割方法を用いた場合でも弱点があることを十分に認識している。さらに筆者は、平成31年度税制改正大綱で取り上げられている所得相応性基準に言及し、もし将来において所得相応基準の算定方法の適用が認められるようになったとすれば、現行の無形資産取引に係わる移転価格税制では解決できないような解釈論的問題点が立法により解決することができるであろう、としている。

 所得相応性基準はBEPSで勧告された算定方法であり、それゆえわが国の平成31年度の税制改正で導入されることになった。この基準は、現在のところ米国、ドイツ及び英国で採用されているのみであり、この基準を実用化するに当たっては、多くの問題を克服しなければならないと思われる。筆者は、HTVI(評価が難しい無形資産)該当性の立証責任は課税当局にあるが、所得相応性基準の適用免除規定該当性の立証責任は納税者にあることから、具体的な適用免除規定の創設が必要であるとしている。したがって、わが国の移転価格税制に所得相応性基準を導入すると考えるのであれば、新OECDガイドラインで提言されている内容よりももっと具体的で、解釈がより明確になるような内容にしなければならないとする。これらはいずれも的確な指摘であると思われる。

 本論文が提出された時点では、わが国の移転価格税制においては所得相応基準が未だ導入されるに至ってなかった。そこで本論文では、所得相応基準の具体的な実施状況を考察するところまでは及んではいない。ただし、平成31年度税制改正までに発表されてきた論文や文献等には丹念に目を通しており、論文中の叙述に反映させている。

 本論文の内容は明晰で分かりやすく、表現力のある書きぶりがとても印象的である。各独立企業間価格算定方法の特色や、それぞれの算定方法のメリット、デメリットを十分に把握した上で、比較検討をしており、その論じている内容については十分な信頼性がある。もしかしたら、国際課税の分野における議論の進展状況からみて、この種の研究は、移転価格税制をめぐる国際租税法の議論においては、すでにごくスタンダードな問題の一つになってしまっているのかも知れない。たとえそうであるとしても、筆者は、あらゆる問題を考慮に入れながら、高い分析能力と表現力とで本研究を仕上げており、将来この分野の研究を志す人達にとって有益な参考情報を与えているとの評価に変わりはない。いずれにしても、本論文は、次への議論につながる橋渡し役としての役割を果たすことが十分に期待できる内容と成果を示している。

論 文(PDF)・・・・・・2.12MB