長尾 元彦 稿「役員給与税制における損金算入要件のあり方」

長尾 元彦 稿
「役員給与税制における損金算入要件のあり方」

(名古屋商科大学大学院 院生)

 本論文は、残波事件第1審判決(東京地判平28.4.22税務訴訟資料266号順号12849)の抱える問題を意識しつつ、法人税法34条2項及び同法施行令の規定を分析することで役員給与の損金算入についての制度的問題点を摘出し、今後のあり方を検討する。

 筆者は、平成18年改正で一本化された役員給与の取扱いに関しては、法人の利益処分を予防し、株主及び役員を叱咤激励する制度であるとして評価する。役員給与の損金算入枠の「枠取り」については、定期同額給与の減額支給の場合には定期同額でない部分の損金不算入を、事前確定届出給与の減額の場合は全額の損金不算入を主張する(第1章)。残波事件1審判決については、判決が実質基準を適正に適用したか否かについて疑問を呈し、同基準の見直しの必要性を説く。筆者が着目するもう一つの判決、三和クリエーション事件第1審判決(東京地判平24.10.9訟月59-12-3182)については、事前確定届出給与の減額支給の場合に、前述の「枠取り」を認めてはならないという考え方を採用したとして積極的な評価を与える(第2章)。本論文の結論を展開する第3章は、前記施行令が租税法律主義に立脚していないこと、法34条2項が「不相当に高額な部分の金額を政令に白紙委任していること、課税庁が法人の自治に介入していること、法34条2項が大規模公開会社に適用された事例が見当たらないこと、同項を適用すると実質的二重課税となってしまうことなどの問題点を挙げ、今後のあり方として、①施行令70条1号イのうち、「当該役員の職務の内容」だけを残し他の3項目を廃止すること、②役員給与の「総額」の届出を義務化すること、の2点を提言している。

 本論文には、業績が低迷する日本企業を再興させ競争に生き残る企業を育てる上で、相応の役員給与を支払い役員の意識・モチベーションを高揚させることが重要であり、税制における役員給与の損金不算入規定がその障害になってはならないという筆者の強い想いが滲み出ている。そこには筆者の社会経験が反映されていると思われる。

 本論文は、平成18年改正後にも従前の法状態が存置されている法34条2項及びその委任に基づく施行令70条1号イの抱える問題点を二つの判例を用いて浮き彫りにしたうえ、今後の役員給与の損金算入制限のあり方を明快に論じている。前記の②は、役員の職務遂行の認識の強化、損金算入枠の枠取りの防止策として位置づけられており、説得力のある提言である。ただ、①については、非同族会社について「当該役員の職務の内容に照らし、・・・相当であると認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額」を存置することが、なぜ著者の強調する予測可能性の確保の要請を満たしうるのかについての説明が求められよう。研究者の立場に立つならば、どうしても説明不足の感は免れないが、奨励賞論文にまで、その説明まで求めるのは、少々酷な要求なのかも知れない。いずれにせよこの点は、本論文全体の意義を損なうものではない。以上を総合して、本論文は、租税資料館奨励賞を授与するにふさわしい意欲的な研究であると評価した。なお、本論文で取り上げる判決を考察の対象とし、同様の視点や問題意識から問題に取り組む論文は、近時、極めて多い。この論文のテーマのように多くの人から注目されている問題を取り上げる際には、よほど独自の論点を打ち出すか、目新しい視点からの研究をすることが求められることを、付記しておきたい。

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