日當 優 稿「租税公平主義と租税法律主義の相克問題の再考―最高裁令和4年4月19日判決の批判的検討を中心に―」

日當 優 稿 (専修大学大学院 院生)
「租税公平主義と租税法律主義の相克問題の再考―最高裁令和4年4月19日判決の批判的検討を中心に―」

 本論文では、租税公平主義と租税法律主義が衝突する関係を「両基本原則の相克問題」(以下、「相克問題」という)と定義し、相克問題がいかに解決されるべきかについて、学説や判例を整理すると共に総則6項事件を批判的に検討し、通説的見解である租税法律主義優先説の優位性を明らかにすることを目的としている。

 全5章からなり、まず租税公平主義と租税法律主義の意義と内容、両者の関係、相克問題を整理した上で(1章)、相克問題を3つに類型化しこの問題をめぐる学説を整理している(2章)。次いで、代表的な判例を上記類型に従って整理し、各判示の内容と学説の通説的な見解との整合性について検討している(3章)。さらに、近年の最高裁判決を比較検討することにより、相克問題に対する考え方に変化がみられるかを検証し(4章)、総則6項事件を批判的に検討している(5章)。筆者は、総則6項事件の最高裁判決は、これまでの租税法律主義優先説の通説的理解と異なり、平等取扱原則を重視して総則6項の適用の可否における判断基準に租税回避の意図を取り込んだことを指摘し、本判決は相続税法22条の適正な解釈から導出したものとはいえないと結論づけている。

 相克問題を租税法の立法の場面と、租税法の解釈・適用という執行の場面の2つに分け、さらに後者を3つに類型化(第Ⅰ類型:法の解釈手法、第Ⅱ類型:租税回避の否認手法、第3類型:借用概念の解釈)した上で、当該類型に沿って学説と判例を整理・検討していく論の進め方は評価できる。多くの文献を渉猟した労作であり、また、筆者が導出した結論も納得できるものである。本論文における検討には論理一貫性と実証性が認められ、しかも新たな相克問題を抽出・検討する点に独創性と前向きな研究意欲が看取される。

 他方、本論文では上記類型のうち、第Ⅰ類型と第2類型について代表的な事例を取り上げているが、第3類型も検討の射程に入れてよかったのではなかろうか。というのは、筆者の言う統一説や目的適合説からの整理が可能な判例が存在するからである。しかし、こういった点を考慮しても、本論文は租税資料館奨励賞受賞の水準を十分に満たしていると評価できる。 

論 文(PDF)