米山 美貴 稿「財産評価基本通達によらない相続税法上の時価評価のあり方―最高裁令和4年4月19日判決を契機として―」

米山 美貴 稿 (青山学院大学大学院 院生)
「財産評価基本通達によらない相続税法上の時価評価のあり方―最高裁令和4年4月19日判決を契機として―」

 本論文は、先行研究の豊富な問題領域において財産評価基本通達によらない時価評価のあり方を論じるものであるが、第1章では、最高裁令和4年判決について木山泰嗣教授の見解に従い従来の裁判例の「特別の事情論」とは異なる「事情法理」を採用したものと理解した上で両者の比較分析を行い、第2章では、租税法律主義の機能と評価通達の関係等を整理し評価通達の位置づけを明らかにし、評価通達によらない評価が認められる余地を示し、第3章では、そのような評価が認められた裁判例をLEX/DBでキーワード検索し40事例65判決を抽出し、評価された事実や要素ごとにグルーピングし図表にまとめ、第4章では、判断要素に照らして考え得る見解を「総合考慮説」、「場合分け説」及び「一要素説」の3つに整理しそれぞれについて利点及び問題点を示し、第5章では、それらの見解を比較検討し、もって「場合分け説」が妥当であるとした上で、同説の判断要素について①評価通達自体の合理性の判断」、「②対象財産に対する合理性の判断」、「③客観的交換価値との乖離の判断」の順に判断フローを示し図表にまとめ、この判断フローに従い、「評価通達が時価を算定する方法として明らかに適切でないと認められる場合に限り、評価通達によらない時価評価は認められる。」(80頁)との結論に至っている。

 先行研究の豊富な問題領域では、先行研究を理解しまとめるだけでも時間と労力を要し、その分、新たな視点から研究を展開することに重きが置かれなかったり困難を伴うことも多かったりするところ、本論文は、そのようなことになることなく、先行研究を十分に踏まえた上で、先行研究にはみられないほど多数の裁判例を取り上げ、評価通達によらない評価を認めた判断要素に照らして比較分析し、その結果を3つの見解に整理し、それらの得失を特に租税法律主義の機能の観点から比較検討し、もって結論として著者独自の提言を明確に、かつ、説得力をもって示していることから、新規性・独創性のある論旨明快な労作と評価することができる。著者の研究遂行能力の高さはもちろんのこと、研究に対する丁寧かつ誠実な取り組み姿勢も高く評価することができる。

 ただ、最高裁令和4年判決が示される前であればともかく、その後の研究としては、評価通達によらない時価評価に焦点を絞って検討をする前に、同判決が財産評価基本通達総則6項に言及せず判断を示したことの意味について考察してもよかったように思われる。今後はそうした考察にも意を用い、研究を広く深く展開していってもらいたい。

 これは著者の今後の研究に対する期待であるが、現状でも本論文は研究論文として十分な水準にあり、奨励賞に値する研究であると考えるところである。 

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