池脇 信一郎 稿「我が国租税法における法人所得の会計方法に関する研究―アメリカ合衆国内国歳入法典との比較分析を中心として―」

池脇 信一郎 稿 (明治大学大学院 院生)
「我が国租税法における法人所得の会計方法に関する研究―アメリカ合衆国内国歳入法典との比較分析を中心として―」

 本論文は、法人税法22条4項の規定する公正処理基準の認識基準について、会計学の立場から、その明確性についての検証を目的とする。そして、裁判例の分析、法人税法22条2項及び3項の規定から導かれる権利確定主義及び債務確定主義という税法の認識原則の検証、さらには財務会計との比較分析という3つの手法の下でも、機能的に明らかにしえなかった部分について、22条4項が立法された際に参照されたとする米国内国歳入法の関連規定をベンチマークとして、当該条項の立法趣旨を確認するとともに、解釈適用に係る判例を詳細に分析し、比較法研究を行っている。

 三編で構成され、第一編は、法人税法22条4項の規定する公正処理基準に関する立法解釈及び裁判例分析に基づき、公正処理基準の有する認識概念を検討し、明確化されなかった部分の検討を米国との比較分析に求める。
 第二編では、米国における法人所得の会計方法を定める規定である内国歳入法典446条を中心に、本規定の「発生主義」の下での認識基準を検討し、規定の立法趣旨解釈及び裁判例から、その意義を概観するとともに、総所得及び所得控除に係る諸項目の認識概念を体系的に整理する。
 第三編では、米国との比較分析に基づき、公正処理基準の有する認識基準について、益金及び損金それぞれについて、目的、要件、原則、基準、指標を整理する(推論と位置付けている)。
 公正処理基準の内容等に関しては多くの先行研究がある中で、公正処理基準の認識基準にフォーカスして、米国の内国歳入法典の認識基準に、その示唆を求める点に、筆者なりのオリジナリティを見出す工夫が認められる。

 本論文の特徴は、何よりも、米国税法での会計方法に対する税法規定の枠組みを表す内国歳入法典446条を踏まえて、総所得(益金)と所得控除(損金)を規定した451(b)条及び461(b)条での認識概念を詳細に検討している点である。論文全体230ページ余りのうち150頁が、米国税制及びその解釈適用に係る判例研究に充てられており、比較法分析の精度は高いと判断される。また、著者が取り上げた判例は、租税法の研究者がこれまで参照してきた有名な判決以外にも渉猟されており、その分析も緻密であると思われる。
 米国との比較法研究から得られた公正処理基準の認識概念への示唆について、本論文を契機として、今後の更なる考察が期待される研究論文と言える。
 それらを総合的に判断して、租税資料館賞にふさわしい論文であると評価する。 

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