長谷川 誠 稿「Territorial Tax Reform and Profit Shifting by US and Japanese Multinationals」

長谷川 誠 稿 (京都大学大学院経済学研究科 准教授)
「Territorial Tax Reform and Profit Shifting by US and Japanese Multinationals」
(2023年12月 The University of Chicago Press発行 『National Tax Journal』Vol.76 No.4 掲載)

 本論文は、雑誌「National Tax Journal」の第76巻4号(2023年)に掲載された英語論文であり、我が国において2009年度税制改正で導入された外国子会社配当益金不算入制度が、日本企業の利益移転の行動に与えた影響を実証的に分析するものである。Orbisデータベースを用いて、日本企業の海外子会社と米国企業の海外子会社の2004年から2016年の投資先国の法人税率に関する税引前利益率の半弾力性(税の半弾力性)を推定する。
 本研究における主な成果としては、米国企業に比して日本企業の海外利益は投資先国の法人税率に対する反応が小さいこと、また、日本企業の外国子会社の税の弾力性が、本税制の導入のアナウンスがあった2008年以降増加していることが確認されている。

 外国子会社配当益金不算入制度の導入による日本企業の利益移転行動についての実証的研究であり、新たな税制の導入が企業行動へ与える影響に関する研究として、有益な情報を提供する。税制改正が企業行動にどのような影響を与えるのかという実証的研究は、租税政策の効果を検証するためには不可欠なものであり、本研究は、EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング。証拠に基づく政策立案)を実施するための基礎的な資料として有用と評価される。

 日本企業の海外子会社は米国企業の海外子会社と比べて、2004年から2016年のデータ期間において税の半弾力性は平均的に小さかったとする本論文における研究成果は、本邦企業は米国企業と比べて、税負担の軽減に向けてアグレッシブではないという一般的な認識が、本研究で裏付けられていると言える。このような認識はある程度一般に共有されていたとはいえ、それをデータの数値で実証した点は研究成果として評価することができる。

 国際課税面においては、2009年の外国子会社配当益金不算入制度の導入以降、外国子会社合算税制における資産性所得の導入(2010年)、移転価格税制における最も適切な算定方法への変更、過大支払利子税制の導入(2011年)、移転価格税制に係る文書化制度の導入(2016年)、外国子会社合算税制の大幅な見直し(2017年)、移転価格算定方法の見直し(DCF法、所得相応性基準の導入等)、過大支払利子税制の見直し(2019年)、グローバル・ミニマム課税の導入(2024年)等、日本企業の海外行動に影響を与える税制改正が続いている。

 これらの税制改正には本来実証的なデータに基づいてその影響についての議論が不可欠であるところ、本研究を契機として、国際課税制度に関する実証的研究のさらなる推進が期待される。

 

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https://www.journals.uchicago.edu/doi/10.1086/727012