本多 博之 稿「消費税法における金融サービス課税」

本多 博之 稿 (税理士/専修大学大学院 院生)
「消費税法における金融サービス課税」

 本論文は現行の消費税法において非課税取引とされている預貯金の利子につき、それが金融サービスとして付加価値を生んでいる部分もあることから、消費税の課税対象に取り込む方策につき検討したものである。

 論文は4章と補論により構成されている。まず第1章においては、わが国の消費税制度の概要を紹介する中で、それが付加価値税の類型に属するものであり、広く課税対象となる取引を捕捉し、非課税規定を限定した構成となっていることを明らかにしている。そして検討を行った裁判例においても、法令の根拠なく課税対象を限定する必要性及び合理性を否定する立場を取っているとしている。第2章では金融サービスとしての利子の構成要素を把握し付加価値を特定・抽出することの困難さを確認すると同時に、非課税である金融サービスの国民経済計算における規模を推計し、さらには非課税であることの弊害として税の累積や過小課税の問題を指摘している、第3章では前章で指摘した金融サービス非課税の問題に対処する具体的な課税方法として①キャッシュフロー(CF)税②税額計算勘定(TCA)付きキャッシュフロー税③修正リバースチャージ税(MRC)④ゼロ税率⑤金融活動税(FAT)があることを明らかにして、それぞれの仕組みのメリット・デメリットを検証している。そして結論となる第4章では前章で紹介された具体的課税方法の中で現実的な執行可能性を考慮すれば、現行の法人事業税の外形標準課税の付加価値割の課税ベースを基準に一部の修正で済む金融活動税(FAT)が実現可能な選択肢ではないかとしている。そしてこの提案に併せて事業者向け金融サービスに限りゼロ税率の適用を認めることにより従来の非課税措置及びFATによる税の累積という問題を緩和できるとしている。
補論においては金融サービス課税の各国政府の取り組みとして、EU、ニュージーランド、オーストラリア及びイスラエルの取り組み状況を紹介している。

 利子等の金融サービスの対価には消費税の課税対象となる付加価値を形成する部分が含まれていて、これを一律に消費税課税になじまない取引として非課税にすることについてはこれまで異論があったものの、具体的な対応策につき言及したものはあまりなかったと思われる。本論文ではその具体的対応策につき、いくつかの選択肢を用意し、個別的な検討が加えられている。主として海外の文献を渉猟するほか、統計的な数字による検証も行われており、対応策の選択肢としては、現実的で実現可能性の高い提案を行っている。問題提起の域にとどまらず、改正に道筋をつけるレベルのものと評価してよいであろう。

論 文(PDF)