片山 知絵 稿「国際課税制度における無形資産の研究―デジタル変革に伴う提言―」

片山 知絵 稿 (筑波大学大学院 院生)
「国際課税制度における無形資産の研究―デジタル変革に伴う提言―」

 本論文の目的は,現在の国際課税制度では、無形資産の認定や評価が不透明であり、算定方法等が困難であることから、二重課税のリスクも高まっており、「立法だけでなく、通達や事務運営要領などから補完していく取り組みが重要である」とする問題意識のもとで、次の2つの仮説を論証することにある。

 ① 移転価格事務運営要領3-13(無形資産の形成、維持または発展への貢献)のあり方
 ② DEMPE機能を活用した価値創造の一致の有用性

 本論文は6章から構成される。第1章では、国際課税制度を概観し、BEPSプロジェクトの行動計画アクション8-10(移転価格税制と価値創造の一致)を確認し、わが国の令和元年度の税制改正を検証している。第2章では、「所得相応性基準」を考察し、上記仮説の妥当性を検証している。第3章では、無形資産の定義と認定に焦点をあて、OECD移転価格ガイドラインにおける無形資産の定義や認定を確認するとともに、国内税法と比較検証し、法的措置の枠組みを明らかにしている。第4章では、AIで作成された成果物に着目し、無形資産取引において、国内税法上、不可欠である要素を明確にしている。第5章では、費用分担契約(CCA)の観点から、デジタル変革に伴う無形資産取引を検証している。第6章では、本論文を総括し、実効的な法的措置等として、次の2点を提示している。

 ① 無形資産の認定にあたり、課税庁と納税者が相互に可能な限り確認できるよう、移転価格事務運営要領3-13に文言を補充すること
 ② 無形資産取引において、価値創造の一致へのアプローチが重要視され、現在以上にDEMPE機能の有用性が見込まれること

 本論文の論旨は明快であり、かつ、分かり易い。しかも、デジタル変革に伴う無形資産の認定は、今日的な課題であり、タイムリー性を有している。本論文の仮説は先行研究に基づくものであり、また、その論証は、学説・文献等を丹念に整理した成果であり、妥当であると評価できる。さらに、無形資産の認定に関する規定の明確化にあたり、移転価格事務運営要領の文言の補充で対応しているが、適切かつ実効的な措置として評価できる。

論 文(PDF)