「競争」と「学習」 大阪学院大学教授 租税資料館理事 武田 隆二

 租税資料館のホームページに多くの方がアクセスするようになり、次第にその存在が皆さんの意識の内に広がってきたことは、関係者として喜ばしい限りです。

一度お訪ねになると分かることですが、閲覧室は静かで勉学には打ってつけの環境であり、関係の文献類も次第に充実してきております。
租税資料館を訪れる方は、何らかの目的を持って、資料を片手に沈思黙考し、調査したい事柄の幅を拡大し、また、その内容の深化を図られることでしょう。

ところで、21世紀は「競争の時代」だといわれます。「競争」とは、「お互いに競い合い、退け合って、相対的に優位な地位を勝ち取る」という意味であると解されます。

では、「相対優位」に立つためには、どのような手段が考えられるのでしょうか。そこにはさまざまなやり方がありうると思いますが、その有力な一つの方法が「学習」することではないかと考えています。

従って、「学習」によって獲得した「知識」を情報として自らの中に取り入れ、蓄積することが必要です。つまり、「学習」は、「知識の習得」を意味する概念であり、外界にある何らかの知識を、さまざまな手段を通じて自己の内に情報として「内部化」する過程です。

それだけで終わってはなりません。「既存の知識」と「新たに獲得した知識」とを結びつけて、「新しいコンセプト」を作り出すこと、すなわち、「新しいアイデアを創発」することが必要です。そうすることが、相対優位を勝ち取る基本となるように思います。

ところで、「学習」という行為は、「静かに読書する」、「沈潜して考える」、「静かに耳を傾ける」等、「静かな場面」で展開されるものであり、「静的な状態」がその本来の姿であるといってよいと思います。これに対し、「競争」とは、お互いに競い合う、動きの激しい状態で用いられる用語ですから、「動的な状態」がその本来の姿であると解されます。 このように、学習という「静的概念」と競争という「動的概念」とが相互依存的に補完し合っていることが分かります。つまり、「競争」と「学習」という2つの概念は、一見全く無関係な事柄のようにみえますが、実は「同一状況」ないし「同一目的」等に対する「動」と「静」との関係、あるいは、「表」と「裏」との関係にある概念だということです。

そのように考えますと、学習するということは、究極的に競争優位を勝ち取る最良の手段であることが理解できるのではないでしょうか。

私が特に力を入れて述べたいことは、「学習」を通じて自らの「知識の幅を広げること」、それによって満たされる「心の豊かさ」を深めることであります。

つまり、租税資料館において本を読むという行為は「学ぶこと」であり、「学ぶこと」は「心を豊かにすること」であると考えます。

実は、税理士さん方の全国的組織であります「TKC全国会」は、人生の哲理として「自利利他」という理念をもって結成されております。この言葉は、さまざまな解釈がありうるかと思いますが、租税資料館を訪れる皆さんの「学習」と関連づけて解釈するとき、「自利」とは、「自己研鑽」を積むことであり、そうすることにより、「自らを高め」、「人生を豊に」することであると解しています。このようにして自ら積み上げた豊かな知識を、他の人々のために役立てることができることになるからです。このことはまさに「利他」に他なりません。ここに「自利利他」の真の意味があるのではないかと考えています。