税制、税務の民主化と規制緩和 金沢学院大学教授 租税資料館理事 平石 雄一郎
民主主義社会では、租税は法律で決められ、公平なものでなければならない。これが租税法律主義、租税公平主義と呼ばれる租税の基本原則であることは、よく知られている事である。しかし、現実に本当に、これらの原則が的確に実現されているか、なお考えてみる必要があるのではなかろうか。
例えば、前者の租税法律主義という問題を見ると、税法の規定するところは極めて抽象的で、細部については法律の執行を担当する行政に委任している。この委任の範囲についても、例えば、借地権課税のような税法独自の問題について「(法律で定めるもののほか)必要な事項は、政令で定める。」(法人税法第65条)という白紙委任的な規定に根拠をおいて課税が行なわれているというような問題はあるものの、それまで実体的なことの多くが税法の執行官庁である国税庁長官の部下職員に対する命令という性格をもつ「通達」によって課税されていたものを、法令に規定することとして、昭和40年に改正された現在の法人税法は、それなりに評価してよいものと思われる。 しかし、その後の推移は、依然、通達課税的な実情は続いており、税法の勉強は通達の勉強と理解されているような面があり、法令ではっきりされていない問題は課税庁の意向で決められ、納税者としてはその意向に逆らい難いというような実情も依然、無しとしないようである。 しかし、これは租税法律主義の観点からは大いに問題であり、課税当局については40年法改正に基づいて行なわれた改正基本通達の前文にあるように「いやしくも、通達の(中略)形式的解釈に固執し、(中略)通達に規定されていないとかの理由だけで、法令の規定の趣旨や社会通念等に即しない解釈に陥ったりすることがない」ことを求めたいし、納税者については課税は法令の規定により行なわれるものであって、納得のゆかぬ課税には不服手続きにより、主張すべきは主張するという意識を強くすることが、なお、求められているものと思われる。 租税公平主義という点からも、制度論としての問題(例えば、所得税の控除の在り方とか消費税の税率などの問題)と共に、法解釈や適用の面からも問題は多い。いわゆる税金逃れ(租税回避行為)について、法令の規定が無い場合どこまで許されるものか、経済的実体に応じた公平な課税は如何にして確保されるべきかなど、さまざまな問題がある。 これらの基本問題の研究は、税務に係わりがある者は勿論、主権者である国民すべてが関心を持つべきことと思われる。我が国は、今、官の規制を極力排し、活力ある民主社会への改革が課題とされ、規制緩和が云われているが、税に関する諸問題こそ最も規制緩和が論議されるべき事では無かろうか。それが憲法の理念にも添った民主社会における在るべき税への前進になることとも思われる。このような研究のためにも、租税資料館の資料も大いに利用して頂きたいものである。 |