甲南大学経営学部の久保田秀樹教授より、ドイツ・デュッセルドルフでの会計法現代化法(BilMoG)に関する調査研究についての報告がありました

甲南大学経営学部教授
久保田秀樹

 会計法現代化法(Bilanzrechtsmodernisierungsgesetz;以下ではBilMoGと略称する。)が、2009年5月29日に施行された。BilMoG施行の税務計算に及ぼす影響の研究の第一人者であるデュッセルドルフ大学のフォースター教授 (Prof. G. Foerster) の指導のもとで、BilMoGについて資料収集し、意見交換することが調査研究訪問の目的であった。BilMoG施行に伴い、専門雑誌に掲載される関連論文やBilMoGに関する専門書籍も数多く出版されているが、特に税務に関連した実際の適用に伴う問題は、これから発生することになる。税理士の資格も有するフォースター教授に直にお話を伺い、資料収集についても適切なアドバイスを得る必要があった。

 デュッセルドルフ市は、ドイツ連邦共和国のノルトライン・ヴェストファーレン州の州都で人口は約58万人である。同州の都市としては、ケルンやボンの方が日本では知られているかもしれない。しかし、ドイツ最大の商業都市であり、ヨーロッパでは、ロンドンやパリに次ぐ規模の日本人居住地である。日系企業は450社前後が同市及びその近郊に事業登録しており、8000人近い日本人が生活している。同市の目抜き通りの1つのインマーマン通りには、日本の百貨店、日系ホテル、和食レストラン、日本食材のスーパー、日本語書籍の専門店、貸しビデオ屋、ラーメン屋等が軒を連ねており、日本と同じ生活も可能である。

 デュッセルドルフ大学は、1965年創立の大学で、正式名称は、ドイツの思想家・詩人であるハイネにちなんで付けられたハインリヒ・ハイネ大学デュッセルドルフ校である。デュセッルドルフにおける学術・教育の中心的な存在で、比較的新しい大学であるにもかかわらずドイツ内外から高い評価を得ている。医学部、人文学部、数学・自然科学学部、経済科学学部、法学部の5学部を擁する。在籍学生数は、約18,000人である。

 デュッセルドルフ中央駅から路面電車で南へ約30分の、緑が豊かで美しい住宅街に位置し、大学通り(Universitatstrase)をはさんで北側が病院と医学部で、南側が大学キャンパスである。キャンパス内にハイネ像があり、その背後に、大学州立図書館がある。ノルトライン・ヴェストファーレン州立図書館はこのデュッセルドルフの他、ボンとミュンスターの三箇所にしかない。その向かいにある「23.32号館」の地下階に経済科学学部・経営経済的租税論講座のフォースター教授の研究室がある。ドアをノックすると教授秘書のアンドレア・ラモンターニュさんが笑顔で迎えてくれた。1960年ハンブルク生まれの教授は、ケルン大学卒業後、税理士の資格を取得し、その後、ケルン大学で教授資格を得た後、ハノーファー大学教授を経て、2004年から現職である。

 BilMoG施行に伴い、日本の確定決算主義に相当するドイツ所得税法(EStG)第5条第1項第1文の「基準性の原則」(Massgeblichkeitsprinzip)は残されたものの、日本の損金経理要件に類似した同法第5条第1項第2文の「逆基準性の原則」(umgekehrte Massgeblichkeitsprinzip)は削除された。その結果、従来の商法上の計算書(Handelsbilanz)と税務上の計算書(Steuerbilanz)との関係が大きく変化することが予想される。

 ドイツの税法には独立の税務上の計算書という概念はなく、企業者は、税法規定を遵守して修正を加えた商法上の計算書を税務署に提出するだけでよい。しかし「逆基準性の原則」が削除され、商法上と税務上の計算書が乖離すると、課税所得計算のための事実に即した修正、あるいは商法上の計算書から独立した課税所得計算が必要となる。専門の経理スタッフを抱え、会計士のアドバイスを受けられる大企業は、商法上の計算書とは別の課税所得計算にも対応できるが、そうした条件を持たない中小企業にとっては、過重負担となり、大きな問題となるとフォースター教授は語った。

 また、BilMoGは国際財務報告基準(IFRS)に近い計算規定を一部導入した。今回、所得税法から逆基準性が削除された理由の1つでもあるが、その結果が税務計算に及ぼす影響も重要である。2009年6月30日に公表された「我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)」により、日本でもIFRSが金融商品取引法適用会社の一部に2010年3月期の年度の連結財務諸表から任意適用される可能性が出てきた。

 IFRS適用の連結先行の先に生じうる問題について、ドイツのBilMoGによる商法上の計算書と税務上の計算書との関係の変化がもたらす影響は、単に外国の制度上の問題にとどまらず、今後の日本にとっても示唆に富むものと考えられる。公益財団法人租税資料館の助成によるドイツ滞在によって、これらの研究に必要不可欠な資料を収集し、フォースター教授から貴重な意見を聴取することができた。今後、これらの資料を活用し、論文等にまとめて発表する所存である。