苅米 裕 稿「法人税法上の非営利型法人の留保所得に対する収益事業課税の一考察 ―所得の源泉と財産の費消が結合する非営利型法人課税の論考―」

苅米 裕 稿「法人税法上の非営利型法人の留保所得に対する収益事業課税の一考察 ―所得の源泉と財産の費消が結合する非営利型法人課税の論考―」

(税理士/筑波大学大学院 院生)

 本論文は、法人税法上の非営利型法人の留保所得に対する収益事業課税に関する研究である。具体的には、公益法人制度改革の理念と収益事業課税の機能を考察した上で両者を結合させた課税制度を考究することで、法人税法上の非営利型法人が先導する民間非営利部門の活動と営利法人が主導する民間営利部門の活動に対する課税方法の均衡を図ろうとする。かかる観点に立ち、本論文は次の5章で構成される。

 第1章 公益法人制度改革に伴う新たな公益法人税制の背景
 第2章 遊休財産額の保有制限要件と優遇措置により蓄積された財産の規制
 第3章 収益事業課税の機能的側面からの考察
 第4章 我が国の収益事業課税の有効性
 第5章 総括-所得の源泉と財産の費消の結合による留保所得課税

 公益法人税制は公益目的の使途により財産の費消を捉えて非課税とすること、及び、非課税所得を内部留保しているのであれば課税対象とすることに制度の理念がある。ただし、法人税法上の非営利型法人の場合、収益事業以外の事業所得金額が一過性の余剰であることの検証はできない。また、最高裁判例によっても、収益事業課税の収益事業の範囲は個々の事業に対する事実認定が必要とされるなど、法令解釈に基づく判定基準を当てはめるとしても、総ての事業について総意が得られるとは限らない。本論文は、このような問題を解消し、法人税の収益事業課税の有効性を機能させる手法として、①法人税法上の非営利型法人の収益事業課税にかかる収益事業の範囲は、現行制度の理念を踏襲し、収益の発生源泉により対価関係の有無や競合関係の有無その他の要因を踏まえて判定すること、および,②収益事業以外の事業の所得金額を発生事業年度において非課税とせずに、翌期以降に当該所得金額を繰り越し、収益事業以外の事業での財産の費消を条件とする課税繰延措置に転換すべきこと、を主張する。そのメリットとして筆者は、第一に、繰延措置に転換させることで申告義務を課すことができ、当該法人の非営利活動の透明性が確保されること、第二に、内部留保の課税問題・累積所得金額の益金算入制度等措置する必要がなくなること、第三に、非営利活動による財産の費消を結合させた課税方式として営利法人との課税のバランスを確保できる等の効果が期待できることを主張する。

 以上に述べたように、本論文は、公益法人制度改革の理念と収益事業課税の機能を考察したうえで、両者を結合させた課税制度を構想することを通じて、非営利活動と営利活動に対する課税方法の均衡を図るという、壮大な意図をもって構成されており、先行研究の丹念な渉猟に基づいた論理的かつ独創的な提言を行っている。これらの点と併せて、非営利法人の非営利活動の透明性確保、課税ベースをめぐる論点の解消、営利法人との課税上のバランス確保など、筆者の問題意識の高さや、その論旨の展開の仕方などの点でも、高く評価できる好作品である。

論 文(PDF)・・・・・・970KB