寺田 浩二 稿「移転価格税制におけるグループ内金融取引に関する一考察 ―債務保証を題材として―」

寺田 浩二 稿「移転価格税制におけるグループ内金融取引に関する一考察 ―債務保証を題材として―」

(日本公認会計士協会準会員/関西大学大学院 院生)

 本論文では、債務保証取引の独立企業間価格の算定に焦点を当てて、これまでの先行研究が提言する算定方法が日本の法的枠組みからみて適切であるか否かの検討を行っている。本論文の構成は次の通りである。

 第1章では、本論文の問題の所在を確認するために、移転価格税制の文書化制度、第三者介在取引、キャッシング・プーリング、リサーチ・クエスションについての考察をする。

 第2章では、日本の先行研究に加えて、主に海外における先行研究の整理を行い、保証料の算定方法の分類を示している。

 第3章では、日本の移転価格税制上の取り扱い及びOECDの取り扱いを検討している。

 第4章では、海外の取り扱いとしてカナダの裁判例をあげて検討している。

 第5章では、前章までを踏まえて、移転価格税制における保証料算定について日本の租税法上の適否の結論を導いている。

 筆者は、わが国において保証料等の算定方法について通達、事務運営要領等に明確な規定がないことに問題があるとした上で、国際的課税規範を重視するならば、「独立価格批准法に準じた方法と同等の方法」(租特66の4②(2)、(1)ニ)を適用すべきこと、すなわち、判所で採用したイールドアプローチ(被保証人が享受する便益の見積もりに基づき保証料を決定する手法)を日本においても認めるべきであると結論を下している。

 筆者は、移転価格税制は国際的課税規範との協調を図るものであるから、日本において規定される独立企業間価格の算定方法も、諸外国の独立企業間価格の算定方法と射程が同じであることが望ましいと主張する。このような算定方法へのアイデアは、主に、保証料は被保証人が享受する便益に基づき判断が可能であるとの考えに拠っている。筆者は、わが国の租税特別措置法66条4項2号(同法施行令39条の12第8号)が独立価格比準法、再販売価格基準法、原価基準法等に加えて、それらに「準ずる方法」を挙げている点につき、「準ずる方法」の容易な拡大適用は避けるべきであるとの考え方に対して、米国、ドイツで認められているDCF法等の評価技法を導入することが困難であれば、法令改正によってDCF法等の評価技法を導入することを検討する必要があるとしている。

 筆者は、租税法律主義の立場から、強引にイールドアプローチを認めてよいかについては判断に迷いがあるようであり、DCF法の規定を設けるべきとの提言もしている。筆者の提言には若干の揺らぎがあるようにも思える。ただし、この度のBEPSの行動計画においては、移転価格税制の強化を意図して、所得相応性基準を認め、DCF法の採用を提言している。そのような動きからすると、筆者の考え方は現実的となってきているといえよう。筆者は、鮮明な問題意識の下で、関連する文献を幅広く検討しており、論旨の展開も明確である。これまで移転価格の分野ではあまり注目されてこなかった問題に着目しており、独創性という点でも、租税資料館賞を与えるにふさわしい論文として評価できる。

論 文(PDF)・・・・・・1.83MB