新垣 厚 稿「投資促進税制としての租税特別措置法の課題 ―投資誘因としての租税特別措置とパテントボックス税制の検証―」

新垣 厚 稿「投資促進税制としての租税特別措置法の課題 ―投資誘因としての租税特別措置とパテントボックス税制の検証―」

(千葉商科大学大学院 院生)

 本論文は、沖縄経済特区を取り上げ、その特区における租税特別措置による地域経済振興策の有効性の検証を行い、その改善策を提言する。研究の対象とする沖縄経済特区は、厚遇された税率のもとで沖縄県への投資を誘引するための措置であるが、その活用実績は低迷しており、経済振興策が十分に活用されていない。本論文ではその要因を分析して、それを解決するための課題を設定、その解決策を考究する。筆者はとくに、租税の基本原則である課税の公平を犠牲にしてまで施行されている制度であるにもかかわらず、それが活用できない制度設計になっている点を問題視し、投資促進税制としての機能を有効にするためにパテントボックス税制の導入を提言する。そのような観点から、本論文は次のような構成となっている。

 第1章 租税特別措置の概要
 第2章 投資促進税制としての租税特別措置法の課題
 第3章 投資誘因としてのパテントボックス税制
 第4章 パテントボックス税制の日本への導入の必要性及び沖縄への誘致

 本論文は、まず、沖縄経済特区の現状を国の公表資料を用いて分析し、活用実績が低迷している理由として、①制度設計が複雑であること、②時限立法であること、③設備投資を対象とする限界があること、の3点を挙げている。①については沖縄振興特別措置法(行政法)と租税特別措置法(租税法)とでは齟齬する部分があり包括的な法整備の必要性を指摘する。また、②については、企業の事業投資は企画、調査、決定を経て実施されその期間は中長期に及ぶが、租税優遇措置が2年ないし5年の時限立法であっては投資リスクに見合ったリターンの判断がつかないため恒久法への転換の必要性を述べている。③についは、高度経済成長期にあっては特別償却の制度は投資の誘因効果があったとしても、低成長経済の状況下では必ずしも有効な手段になり得ない。そこで筆者は、無形資産投資を追加するなど、投資の多様化を認めるよう、新たな提案を行っている。これらの指摘を踏まえて筆者は、知的資産形成の基盤整備が進展している沖縄県において、租税公平の原則を基礎に置きながらも、簡素な制度設計と恒久的な法的措置を施すこと、すなわち、パテントボックス税制を導入することで、経済特区としての政策実現が可能になるとする。本論文は、沖縄県という特定の地域に限定してはいるが、その議論は他の国家戦略特区の活性化に対しても一定の示唆を与えるのではないかと評価される。

 以上のように、本論文は、沖縄経済特区の活用実績を財務省の公表資料を用いて実証的に分析することにより、活用実績が低迷している原因を突き止め、先行研究の丹念な検討を通じてその解決策を提言している。研究にあたっては、理論的一貫性および独創性が見られ、本論文は高く評価できる。

論 文(PDF)・・・・・・2.04MB