佐々木 栄斗 稿「我が国の消費税法における土地取引の非課税制度の是非について」

佐々木 栄斗 稿
「我が国の消費税法における土地取引の非課税制度の是非について」

(筑波大学大学院 院生)

 本論文は、不動産業者や不動産ディベロツパーが、購入した土地を比較的短期間のうちに大きな付加価値をつけて販売する取引をしているにもかかわらず、わが国の消費税法において非課税とされていることには合理性があるのかという疑問に端を発して、土地取引に対する非課税制度の是非や、建物と一体として取引する場合に土地価格について生じる歪みの解決などの問題を考え、検討しようとする。

 筆者は、まず、日本の土地取引非課税の根拠につき批判的に検討し、非課税制度は根拠に乏しいものであったとする。すなわち、「資本移転」や「資本取引」であることをもって非課税の根拠とすることはできず、「消費」は、必ずしも物質的な費消行為を前提したものではなく、地価形成要因等を分析して、「消費」を肯定できることを示そうとする。その際には、土地取引を非課税とする政策についての理論的批判等に関する主要な先行研究についても的確に参照をしている。

 以上を踏まえて、筆者は、取引のタイプ別(分割併合タイプ、建築販売タイプ、下取り販売タイプ別)検討に移る。その結果、事業者間における事業用不動産の譲渡の場合(それにも例外がある)を除くと、担税力を認めることができるとする。具体的には、「不動産業者に絞った消費税課税制度の提案」を行う。筆者によれば、「付加価値の創造」が見られる「特定事業者」による複合不動産の一体的譲渡については、課税取引と定めるべきであり、特定事業者以外の課税事業者や消費者等の間の取引については「付加価値の移転」となるので非課税または不課税とすべきであるとする。ここでいう「特定事業者」として筆者は、原則として宅地建物取引業法2条3号に定める宅地建物取引業者(いわゆる不動産業者)を指すべきであると考える。そのような措置により、筆者は、非課税の土地と課税取引の建物を同時に販売することで起こる価格歪曲効果を抑制できると主張する。

 本論文は、明確な問題意識に立って、土地取引の非課税制度について慎重かつ大胆に検討を加えたユニークかつ優秀な論文であると思料される。物理的側面の「ハードとしての土地」と機能的側面の「ソフトとしての土地」との区別、地価形成要因等の分析による「消費」の肯定、「付加価値の創造」と「付加価値の移転」の区別など、興味深い論述がなされている。土地取引非課税制度のもたらす「価格歪曲効果」について考察する際には、ふんだんに図表を用いて興味深い分析を展開することによって、非課税制度が経理実務を複雑にしていることや、企業の価格調整戦略による土地評価制度への歪みを生じていることなどを論証する。英国のVATおよびニュージーランドのGSTの分析も、本論文の内容的深さを示している。著者自身の研究において残された課題についての意識を明確にもっている点など、最後まで冷静さを失っていない執筆態度にも好感を覚えた。本論文の叙述によると、筆者は、不動産評価を仕事としているようである。評者としては、実際の実務に携わった経験がこのような研究に結実したことをとても喜ばしく思う。

論 文(PDF)・・・・・・3.21MB