古川 良之 稿「法人税法上の新株の有利発行取引に関する一考察 ―新株主に対する受贈益課税を中心に―」

古川 良之 稿「法人税法上の新株の有利発行取引に関する一考察 ―新株主に対する受贈益課税を中心に―」

(富士大学大学院 院生)

 本論文は、株式の有利発行が行われた場合の、新株主に対する受贈益課税の課税要件に関する問題点を検討し、適正な課税のあり方を提唱することを目的としている。

 本論文は、まず、有利発行取引の概要と発行法人、既存株主、新株主の各立場における課税関係の概要を整理する。また、オウブンシャホールディング事件を取り上げ、同事件判決を分析することで、有利発行課税の課税要件について生じている疑義(不明確さの要因)を明らかにしようとする。これらの整理や検討を通じて、筆者は、新株主に対する有利発行課税の課税要件のうち、「課税の根拠」と「適用範囲」という2つの側面に疑義があることを指摘する。

 法人税法では有利発行に関する直接的な規定は存在していない。そのため、法人税法22条2項が課税根拠になっている。ところが、「有利発行取引の構造」が不明確であることに加えて、法人税法22条2項と法人税法施行令119条1項4号との間には矛盾が生じていることや、適用範囲については、「発行法人が非公開会社の場合の『判定の時価』の算定方法」が示されていないために、「既保有株式に生じる希薄化損失の取扱い」に問題があることが、本論文では明らかにされている。これらの問題点については、これまでの裁判例でも深い議論はなされておらず、納税者にとっては不合理と言わざるを得ない判決内容となっていることが指摘されている。

 以上を踏まえ、筆者は立法措置による対応の必要性を説き、適正な課税を行うための方法として「損益に関する別段の定め」の設置を提唱する。

 本論文は、有利発行課税の課税要件のうち、「課税の根拠」「適用範囲」に着目し、そこから生ずる問題点を、従来の議論や裁判例を踏まえながら深く検討しており、読者を引きつける内容になっている。問題意識が明確であり、議論の進め方にも長けている。そのため、筆者の提言である立法措置による対応も、十分説得力のあるものになっている。たとえば、筆者は、時価と払込金額との差額を収益と認識し課税するについては、解釈論による限界が損することを指摘して、立法的解決を図ろうとするが、その際に筆者は、オウブンシャホールディング事件最高裁判決との整合性から、別段の定めにより差額を配当金としてみなし課税をする見解を採ろうとする。この例にも見られるように、丹念な分析から導き出された問題解決のための提言には十分傾聴に値する。とりわけ、筆者が問題点として浮き彫りにした4つの論点(有利発行取引の構造の不明確さ、法人税法22条2項と法人税法施行令119条1項4号との間の矛盾、保有株式の希薄化の取扱いの矛盾、非公開会社における「判定の時価」の算定方法)についての議論は、他者の論文を単に引用し引き写すだけに止まるのではなく、どの論点についても自らの見解がその根拠と共に述べられている。その点で本論文は、きわめて優れており、十分評価に値する。総合的に判断して、本論文は、租税資料館賞を授与するのにふさわしい研究であると思料する。

論 文(PDF)・・・・・・1.18MB