今井 俊哉 稿「連結納税制度における繰越欠損金の法人間移転と課税理論―組織再編税制との比較を踏まえて―」

今井 俊哉 稿「連結納税制度における繰越欠損金の法人間移転と課税理論―組織再編税制との比較を踏まえて―」

(大阪経済大学大学院 院生)

 経済実態は同一であるにも拘わらず、制度間での繰越欠損金の取扱いが異なることに着目して、筆者は、繰越欠損金の法人間移転をめぐる課税理論を考察しようとする。

 本論文は、4章で構成されている。第1章では、完全親子会社関係下の連結納税制度の利用と合併との経済的実態の同一性を探究すべく、結合企業の概要とその一体性の捉え方を考察する。第2章では、連結納税制度の基本的考え方と法構造を確認するとともに、繰越欠損金がいかなる理論により引き継がれ、制限されるのかを考察している。第3章では、企業集団における経済的一体性と、独立法人であることから生じる法的多様性について、その実質と形式とに着目ながら判例の分析を行う。最終章では、これまでの議論を踏まえ、連結納税制度における課税の中立性と、その実現の障碍となる租税回避に焦点を当てて、欠損金引継要件としての事業継続性について検証をする。結論的に筆者は、①親子関係会社は限定的ではあるが同一体として扱われるべきである、②連結申告開始又は加入時における連結子法人の繰越欠損金が切り捨てについては、見直しの余地がある、③法律的帰属を離れて課税することは法的安定性を阻害する恐れがある、④連結納税制度が企図する課税中立性は限定的中立性の概念で、障害となる租税回避行為を制限する必要がある、とする。また、①完全親子会社関係において同一体説が妥当とする範囲においては合併と等しく取り扱うことが整合的である、②繰越欠損金については、原則として連結への持ち込みを認めたうえで、その個別の所得金額を限度として控除を認めるべきである、③親法人の繰越欠損金を利用した恣意的な制度の濫用を抑制するため、SRLY準則的な制限も考慮すべきである、ことを指摘し、そこでの制限の判断基準は、組織再編税制と整合することが望ましいとする。さらに、連結納税制度を簡略化して、組織再編税制における欠損金利用に関する規定の一部として定めるなど、連結納税制度と組織再編税制との制度間における調和と簡素化の両立が求められるとする。筆者は、一定の場合には連結子法人の欠損金の引き継ぎを認めるべきとすると共に、租税回避の恐れがあるときには、SRLY準則的な扱いをするなど、複数の処方箋が必要であるとする。

 わが国では、連結納税制度における欠損金の引き継ぎは長らく制度化されてこなかったが、制度化への経緯については、もう少し丁寧な説明が求められるところであろう。また、筆者の提言の多くは、政府税制調査会の専門家会合での議論に依拠しており、筆者独自の見解とは言い難い。ただし、連結納税制度と繰越欠損金の法人間移転をめぐる課税理論を解明しようとする筆者の研究意欲は、大いに評価されるべきである。その作業においても、膨大な先行研究を丹念に検討し、米国における制度の検討を加味するなど、真摯に研究課題に取り組む姿勢が論文でも示されており、租税資料館賞の受賞に十分値する。

論 文(PDF)・・・・・・967KB