木津 憲亮 稿「不相当に高額な役員退職給与に関する一考察 ―平均功績倍率法に代わる合理的な算定方法の提言を中心として―」

木津 憲亮 稿「不相当に高額な役員退職給与に関する一考察 ―平均功績倍率法に代わる合理的な算定方法の提言を中心として―」

(札幌学院大学大学院 院生)

 高額な役員退職給与の「高額性」を判断する基準として、裁判等では平均功績倍率法が多く用いられていることに対して、本論文では、功績倍率算定のためのデータ開示がないことが法的安定性及び予測可能性を損ねているという問題意識から、平均功績倍率法に代わる合理的な算定方法を提言する。

 本論文は全4章で構成されている。第1章では、退職金制度の歴史、退職所得課税の経緯や、法人税法における役員退職給与の損金不算入制度の変遷、功績倍率法が裁判等で採用されるに至った経緯について詳述する。筆者は、第2章において法人税法32条2項並びに同法施行令70条2号について、「不相当に高額」等の不確定概念を用いること及び委任立法の是非を検討するとともに、納税者における算定要素のデータ入手の困難性や、課税庁の抽出基準の不透明性などの功績倍率法の問題点を挙げている。第3章では、平均功績倍率法の問題点と限界について、二つの裁判例を取り上げて検証する。3章までの検討を踏まえて、第4章においては、平均功績倍率法に代わる方法としての「株価比準方式」と、紛争解決手段としての「和解・合意」制度のわが国への導入を提言する。

 筆者は、平均功績倍率法の問題点として、功績倍率を算定するためのデータが公表されておらず、情報公開請求法の開示請求も困難で、法的安定性と予測可能性を害していることを挙げ、データ開示と類似法人の選択に当たっての抽出基準の透明性を求めている。さらに、裁判例の考察を通じて、平均功績倍率法の問題点の抽出と平均功績倍率法を採用し続けることの弊害を検討し、これに代わる新たな算定方法の必要性を説く。その論拠や議論の展開の仕方は明快で、説得力がある。筆者は、平均功績倍率に代わる方法として、取引相場のない株式の評価方法を応用した「株価比準方式」と、「和解・合意」制度の導入を提言しており、問題解決への道を模索する。

 筆者は、退職金制度、法人税法における役員退職給与の沿革を丹念に調べ、裁判例の分析を踏まえた上で、功績倍率法による弊害を抽出する作業を進めている。筆者の問題への取り組む姿勢や処理の仕方は明快で、原因解明や問題解決に向けての努力も、真摯かつ意欲的に行っている。もっとも、データ公表のあり方や、「和解・合意」制度を提言するに際して筆者が参考にしているアメリカ、ドイツの過大役員報酬規制については、原典を十分に検討しておらず、その訳出や引用などにも問題があることは否めない。テーマ自体もすでに多くの人により研究し尽くされた感のあるテーマである。ただし、平均功績倍率法に代わる合理的・客観的な算定方法として株価比準方式などを提言する筆者の議論には独自性が認められる。それと共にその論旨の一貫性は、筆者の議論に説得力を与えており、租税資料館賞受賞に値する作品として評価できる。

論 文(PDF)・・・・・・1.44MB