全 祐貴 稿「ビジネス類似の宗教行為の現状と固定資産税における課題 ―財産税という性質による宗教法人への非課税制度の提案―」

全 祐貴 稿「ビジネス類似の宗教行為の現状と固定資産税における課題 ―財産税という性質による宗教法人への非課税制度の提案―」

(兵庫県立大学大学院 院生)

 本論文は、地方税法348条2項3号により非課税とされている宗教法人の境内地等の立法上の問題点を指摘し、その改善の方策を探ろうとする。筆者は、同号の厳格解釈により、ビジネス類似の宗教行為(高額な料金のかかるペット葬祭業、納骨堂営業、いわゆる坊主バー・坊主カフェ、高級宿坊営業など)の特徴である、①一定の価格を設定した対価性を有する行為、②教信徒・非教信徒を問わないサービスの提供、③事業に係る一定の外注を行うもの、に該当する場合には非課税とされる境内地等から除外されるべきであることを、固定資産税の財産税としての性質に基づく解釈論として主張する。

 本論文では、①ビジネス類似の宗教行為とはどのようなものか、なぜそれが問題なのか、を述べた後、②民間事業者とのイコールフッティングの観点からすると、宗教法人の行為であっても法人税や財産税としての固定資産税の課税がありうるが、課税要件に「専ら」「本来の用」「供する」というような不確定概念が採用されている結果、課税対象から漏れることが生ずる点を指摘する。次に、③「宗教性」はどのような要素によって認められるのかを探求し、④「本来の用」と言えるのは財産税としてはどのような状況が必要なのか、⑤「供する」とはどのような行為のことをいうのか、⑥「専ら」とはどのような状況にある必要があるのかを検討する。これらの検討の結果として、筆者は最後に、⑦外部運営事業者を介した境内地等の利用を例として、宗教法人に行為の主体性がある場合においては、その行為自体を宗教法人の自主的な営利行為とみて、境内地等の利用であっても非課税対象から除外することを可能にするよう、新たな解釈を提案する。

 宗教法人課税のあり方については従来から様々に議論されてきたが、本論文では、固定資産税の課税に関しては、財産税としてのその性質に基づいて、非課税から除外されうる行為を類型化して提示し、これにふさわしい法的表現を地方税法348条2項3号に盛り込むべきことを具体的に提案しており、その点で、注目すべき独創性がみられる。宗教に関するナイーブな課税問題を取り上げていることから、筆者は自己の主張に説得力を持たせるため様々な例証を行っている。そのため論文を読んでいて若干冗長の感がする箇所があることは否定できない。時に特定の先行業績に依拠する部分が目立つことと併せて、文章表現についても、さらに改善をする余地がある。ただ、論点やテーマに対する着眼点とその興味の広範さはユニークで独創性があること、問題に対して真摯に向き合う姿勢が評価されること、展開している議論も内容的に十分評価できることなどから、租税資料館賞に十分値する労作として評価する。

論 文(PDF)・・・・・・1.63MB