立花 直輝 稿「職務発明対価の給与所得該当性―特許法平成27年改正を踏まえて―」

立花 直輝 稿
「職務発明対価の給与所得該当性―特許法平成27年改正を踏まえて―」

(青山学院大学大学院 院生)

 本論文は、職務発明対価の所得区分として、給与所得に該当するか否かを論じようとする。問題提起的な裁判例を掲げる第1章、給与所得の要件・範囲等を論じる第2章に続いて、第3章においては、特許法の職務発明制度の沿革を辿った後に、特許法35条について詳細な検討を加え、「相当の対価」及び「相当の利益」は、発明へのインセンティブであるとする見解を展開する。この第3章を前提にして、第4章では、職務発明対価の所得区分について、譲渡所得説,一時所得説,雑所得説を検討し,それらがいずれも妥当ではないと論じている。これらの学説を検討した結果、本論文は、①雇用契約又はこれらに類する原因に基づくこと、②使用者の指揮命令に服すること、③労務の対価として使用者から受ける給付であること、という最高裁昭和56年判決が示した給与所得の三要件を充足することを理由に、筆者は、職務発明対価は給与所得に該当するという結論に至っている。

 本論文は、職務発明対価の所得区分に関して、諸学説を整理し、かつ、著者の論旨を明快に展開している。この明快性が本論文の特色である。職務発明対価の所得区分にかかる議論は目新しくはないが,本論文は学説・判例を丁寧に検討した上で,特許法改正を踏まえた職務発明対価の性質を認定し,その給与所得性を導くという堅実な検討手法を使って論述している。とくに,本論文の職務発明制度と特許法改正に関する部分(第3章)は,知的財産権に関する研究を渉猟した著者の豊富な知識に基づく正確な記述であり,著者の制度理解度の高さを十分に示している。もっとも、本論文に問題がないわけではない。職務発明対価の所得区分を給与所得と解することを絶対的な前提条件とした上で譲渡所得説等を批判・検討する意識が前面に出過ぎていることが理由であろうか、本論文の核心である職務発明対価を給与所得とする見解の検証過程やその根拠の説明が、やや不足しているとの印象を受けた。たとえば、近時の判例や議論の展開を考えると、最高裁56年だけを根拠として給与所得該当性根拠づけたり、給与所得の判断基準としたりすることについては、どうしても何か物足りない思いがしてしまう。また、職務発明対価の形態には様々な存在がありうるにもかかわらず,そのような形態の違いに着目することなく、一律に給与所得該当性を肯定している点なども、もう少し説明を要するところであろう。このように本論文には、プラスの側面である明快性にとって必然的に伴う、負の側面というべき問題の存在を感じさせる点もあるが、特許法の平成27年改正を踏まえて明快に給与所得説を展開しており、現在のままでも、職務発明対価の所得区分に関する今後の議論に一石を投じる論文として、大いに評価されて良い。

論 文(PDF)・・・・・・679KB