田中 伸明 稿「法人税法における減価償却に係る償却単位の判定基準についての 一考察―少額減価償却資産を中心に―」

田中 伸明 稿「法人税法における減価償却に係る償却単位の判定基準についての 一考察―少額減価償却資産を中心に―」

(日本大学大学院 院生)

 法人税法では、固定資産及び減価償却資産の定義はなされているものの、減価償却資産の計上単位である償却単位についての判定基準を定めておらず、法人税法基本通達7-1-11に定める「通常の取引単位」及び「機能」に基づいて、償却単位の判定が行われている現状にある。そこで、本論文では、一括償却資産や減価償却制度全体との整合性を踏まえて合理的かつ統一的な資産の償却単位の判定基準を明らかにすることが必要であるとの立場から、NTTドコモ事件判決を中心に、少額減価償却資産の償却単位の判定に係る4つの判例を検証した上で、以下の提言を導いている。

 (1)現在通達が償却単位の判定において用いている「機能」については、「利便性の高い資産本来の使い方とみなされる機能」と解釈すべきである。(2)上記の「機能」による償却資産単位の判定方法については、法令によってその方法での判定を行う旨を明記すべきである。(3)かつて存在した少額重要資産制度を再評価した上で、同制度の再度の法制化を検討すべきである。(4)少額重要資産制度が廃止された理由の一つは、何が少額重要資産に該当するのかが判断し難いために、税務当局と納税者間の見解の相違が多く、紛争が生じていたことであったが、その対応策として、少額重要資産については耐用年数省令に基づく耐用年数表に特掲する(併せて、一括償却資産制度について廃止を検討する)必要がある。

 本論文では、資産の償却単位の判定基準として用いられることが多い「機能」については、その意味を過度に狭く捉えるならば、法人課税ベースの浸食が懸念される、という問題意識に立ちながら、「機能」の意義をめぐってこれまでに論じられてきた多岐にわたる学説を丁寧に検証しており、その中で自分の考えと立場をしっかりと打ち出そうとしている姿勢が印象的であった。これまでの通達課税によって生じた制度の弊害を立法により是正すべきである、という考え方を含めて、自分の立場が明確に示されており、論文の論旨は極めて明確である。上記の提言を導くに当たり、筆者は、現行法人税法の減価償却資産制度及び旧法人税法での少額資産制度、少額減価償却制度の償却単位の判定に関する4つのNTTドコモ事件判決の内容や、有形・無形固定資産の性質・償却単位の判定をめぐる学説上の論点等を丁寧に検証し、資産本来の性質に基づく償却単位の合理的・統一的な判定基準の必要性を強調する。本論文は、一貫した問題意識の下で、各章の論述を有機的に連携させながら結論に導くよう、良く考えて構成されており、その構成力のすぐれていることも評価される。筆者の提言内容には、少額重要資産制度の再度の法制化という過去の制度の復活が含まれており、直ちに実現できるとは思われないが、過去の経験を顧みて、現在に活かすためにする努力は、将来のために必ずしも無駄にはならないであろう。それらを総合的に判断して、租税資料館賞にふさわしい論文であると評価する。

論 文(PDF)・・・・・・1.69MB