原島 雄大 稿「マンション管理組合が行う収益事業における納税主体の検討 ―東京高裁平成30年10月31日判決を手掛かりとして―」

原島 雄大 稿「マンション管理組合が行う収益事業における納税主体の検討 ―東京高裁平成30年10月31日判決を手掛かりとして―」

(大阪経済大学大学院 院生)

 筆者は、(筆者によればその社団性が不明確な)マンション管理組合の資産の帰属を手掛かりにして、同組合が営む収益事業(共用部分の利用)からの収益の帰属関係を明らかにし、そのような収益の納税主体は誰かを考えようとする。筆者は、まず、マンションの区分所有と管理の関係を実態に即して紹介した上で、有者と管理組合のそれぞれの機能区分に応じた法的枠組みを確認し、従来の最高裁判決(昭39.10.15)からすれば、管理組合が極めて高い社団性を有することを認めている(第1章)。次に、携帯基地局の敷地賃料収入をめぐって人格なき社団性と実質所得者課税の原則の適用が争われた租税判決(東京地判平30.3.13、同控訴審・東京高判平30.10.31)を紹介・検討し(第2章)、筆者によれば民法上の権利能力のない社団の借用概念である人格なき社団の基本的性格の考察を行い、法人課税と個人課税のいずれかの判断は、実質所得者原則で判断すべきであると指摘して(第3章)、第4章での実質所得課税の原則の検討に繋げている。筆者は、所得税法12条や通達の検討などから、資産から生じる収益については、その法律上の所有者に帰属させるべきである(法律的帰属説)との立場を明らかにするが、その一方では、管理支配という経済的事実も無視できないとの考えを匂わせる。第5章では、資産の帰属をめぐる基本的考え方を踏まえた上で、管理組合の財産、管理費・修繕費、共用部から生じる金銭債権の帰属を検討する。

 結論として筆者は、管理組合は管理のみを行う団体であるとの前提から、その財産は、前出・東京地判判決と異なって区分所有者に帰属し、総有財産である管理費・修繕積立金は管理組合に、合有財産である金銭債権は、観念的にせよ区分所有者に帰属すると解すべきであるとする(第5章および「結語に代えて」)。

 本稿が扱ったテーマは、マンション管理において、しばしば住民等が直面する実際的問題ではあるが、共用部からの収入に関する税務上の取扱いをめぐっての理論的研究は、それほど進んでいないと思われる。そのような状況の下で、著者は、先行研究の調査や理解に十分な時間を費やして、この問題に取り組んだ様子が窺われる。具体的作業においては、基礎理論の検証を、丁寧に行っていることが感じられた。ベースとなる区分所有法の説明も、議論の背景に基礎知識の集積があるせいか、とても分かりやすくなっている。とくに、収入を目的内と目的外で区分し、共有部分からの収益が持つ管理費や修繕積立金との性格上の差異を根拠としての東京地裁平成30年判決に対する批判的検討には、論理的な一貫性と説得力があると感じた。その反面、組合規約に特別の定めがある場合の検証が十分ではないため、法的なパッケージとしての整理が不十分であったのは甚だ残念である。ただし、論文全体を通じて、関連する学説・判例の渉猟も十分に行われており、自分の意見も必要に応じて明確に表明していることからも、本論文は租税資料館賞を受賞するのに十分値する。

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