前田 健介 稿「業績連動給与税制(法人税法34条1項3号)に関する検討 ―我が国のインセンティブ報酬制度におけるコーポレート・ガバナンスの役立ち―」

前田 健介 稿「業績連動給与税制(法人税法34条1項3号)に関する検討 ―我が国のインセンティブ報酬制度におけるコーポレート・ガバナンスの役立ち―」

(大阪経済大学大学院 院生)

 本論文は、わが国において未だ普及に至らない業績連動給与について、コーポレート・ガバナンス・コードというソフトローの観点から、法人税法34条1項3号における業績連動給与税制の発展の余地を考察する。わが国における役員給与は、固定報酬が企業の大半を占めており、業績連動給与の導入は限定的なままに止まっているが、筆者は、業績連動給与が普及に至らない理由を税制上の問題に求めようとする。一般に法人税法では、役員給与に関する恣意性の排除を目的に規定がなされる傾向がある上に、業績連動給与については恣意性の入り込む余地がさらに大きく、その排除も容易ではないためと分析している。会社法でのお手盛り防止と法人税法での恣意性の排除が客観的に可能となれば、日本企業における業績連動給与の導入推進に繋がると筆者は考えている。ところが、法人税法は適正かつ公平な課税の実現のため厳格な規定が要求され、定量的に判断できる形式基準を採用せざるを得ず、恣意性の余地を払拭することはできない。そこで、恣意性排除の役割をコーポレート・ガバナンス・コードに求める工夫を試みる。すなわち、現在の多様化・複雑化する業績連動給与に対して、法人税法というハードローのみで画一的に規律するには限界があるが、補完的にコーポレート・ガバナンス・コードというソフトローを併用することによって、公平で中立的な業績連動給与税制に繋がらせようというアイデアを筆者は用いようとする。

 本論文は、業績連動型報酬という新しい制度について、明確な問題意識のもとに書かれた論文である。このテーマにおいて当然に避けて通ることのできない会社法におけるコーポレート・ガバナンスの論点を真正面から取り上げており、本格的な学術論文の様相を呈している。 実証研究に関する文献を含めて、引用文献のリサーチも誠実に時間をかけて行われている様子が窺われる。「守り」から「攻め」の経営に、という直近において報告されている政府の対応などの時代の流れを明確に意識しながら論文に取り組んでいることも好感しうる。筆者の意図や議論は分かりやすく、その思うところは、非常にクリアに読者に伝わる。とくに筆者は、主として恣意性排除という視点から問題に取り組み、筆者なりの結論を導くことに成功している。ただし、筆者の論理は、業績連動給与導入を図ろうとする目的志向の傾向が強すぎるせいもあろうが、どちらかというと概念的で客観性を欠いていると受け止められる恐れがないわけではない。さらに、欲を言えば、業績連動給与の実際のインセンティブ効果や、業績連動給与税制の内容や恣意性排除効果についても、もう少し丁寧な説明が望まれるところである。また、業績連動型報酬が根付かない理由が本当に税制だけにあるのであろうか。仮にそうだとしても、税制をどのように変更すればよいのかという問題については、生の外国文献を参照してより深く検討することが望まれよう。もっとも、租税資料館奨励賞の受賞論文としては、現状のままでも十分にその評価に値する。

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