宮杉 賢 稿「中小企業に対する事業税の外形標準課税導入に関する検討 ―応益課税の視点から―」

宮杉 賢 稿「中小企業に対する事業税の外形標準課税導入に関する検討 ―応益課税の視点から―」

(東洋大学大学院 院生)

 本論文の目的は、事業税をめぐる税負担の不公平性や税収の不安定性という問題の解決を図るため、応益課税という観点から、中小企業への外形標準課税導入の可能性を検討することにある。筆者は、第1章で、応益課税がその理論的根拠の一つとされている事業税(制度)の現状と問題点を考察する。事業税の概要・沿革・理論的根拠を概観した後、筆者は、受益者負担を建前としながら未だに所得を課税標準としている事業税には、税負担の公平性を著しく損なっている面があることを指摘する。第2章では、シャウプ勧告や政府税制調査会での議論を踏まえながら、2003年度税制改革で資本金1億円超の大企業に外形標準課税が導入されまでの経緯を丹念に整理し、外形標準課税導入の前後において提訴された注目判決(東京都銀行税条例事件判決、神奈川県臨時特例企業税条例事件判決)を紹介し、それぞれへの検討を加えている。第4章では、中小企業に対する外形標準課税導入の是非と導入の必要性を検討し、中小企業を取り巻く環境にも変化があったことなどを挙げ、事業税が応益課税であることを重視する立場からは中小企業にも外形標準課税の導入をすべきであると主張する。それらの議論を踏まえた上で、筆者は、中小企業に対する外形標準課税が導入された場合に中小企業が受ける影響を検討し、中小企業にも適合する外形標準課税事業税のあり方を模索する(第4章)。

 修士論文としては、かなりの字数を用いて書かれた本論文は、研究動機やその目的が明確であることに特色がある。事業税に見られる資本金規模による差別的取扱いをなくし、応益課税の原点に立ち返って中小企業に外形標準課税を導入するため、筆者は、先行研究を丹念に分析し、統計データを用いた検討を行っている。筆者が一貫して主張する、中小企業に対する事業税における外形標準課税の導入を通じて、統一的な事業税の制度設計を目指そうとする提言は、その論理が首尾一貫しており、高く評価しうる。筆者の問題意識の根底には、大企業と中小企業の税負担の調整があるが、同時にまた中小企業と個人企業との税負担の調整についても検討の視野と射程に含めていることも注目される。一般に、中小企業の税負担をどうするかは、片や大法人との税負担の調整、もう片方では個人企業との税負担の調整という、二つの反対方向の力の均衡点で決まると言われている。法人成りなどの手法で、わが国の中小企業の実態が、将来においても個人企業と変わらないという前提に立つのであれば、後者の立場が重視されるべきであるが、本論文はこのような観点をも見過ごさず、この種の問題に対しても、説得力のある結論を導き出そうとしている。本論文は、実証的な側面でも、テーマの選び方や論理の展開の仕方においても、独創的な研究として、十分に評価することができる好論文である。

論 文(PDF)・・・・・・1.49MB