馬場 義久 著『スウェーデンの租税政策―高福祉国家を支える仕組み』

馬場 義久 著
『スウェーデンの租税政策―高福祉国家を支える仕組み』

(早稲田大学名誉教授/総合政策フォーラム特別研究員)
(株)早稲田大学出版部 令和3年2月刊

 本書は、スウェーデンの租税政策に関する包括的な研究書である。二元的所得税は,1991年にスウェーデンにおいて導入され,わが国の税制改革にも大きな影響を与えたが、その制度の理論的な背景を明らかにするとともに、高福祉国家であるスウェーデンの巨額財源を持続的に調達可能としている税制全般についても詳細に分析し、紹介している。

 本書の構成は,大きく3つにわかれる。まず,第1章から第3章では二元的所得税導入の背景からその後の個人所得税の変遷が扱われている。次の第4章から第8章では、個別の税制についての分析が行われている。具体的には、勤労所得税(第4章),年金税制(第5章、資産保有税(第6章)、法人税(第7章,第8章)について、それぞれの制度改革の意図や効果についての分析が行われている。最後の第9章、第10章では、本書の中心的なテーマとはやや離れて、消費税の軽減税率の問題、税務情報の補足システムなどが論じられている。本書は、著者がこれまで発表してきた個別の論文を統一的に整理した書物であり、一貫した理論的視点で個々の制度を論じるというよりは、個別の税制ごとに問題点や課題を指摘するというスタイルになっている。

 二元的所得税について筆者は、所得を勤労所得と資産所得に二分し、勤労所得にのみ超過累進税率を課し、資産所得には均一の低税率を課す「分離課税システム」であると位置付ける。二元的所得税の評価については、課税ベースとして「所得」と「消費」のどちらが望ましく適切なのかという問題が関わっており、どちらの立場に立つかにより、資産所得課税や法人税のあり方が変わってくるので、とても重要な論点であるといえよう。新しい法人税の提案をする第8章では、ACEやCBITという法人税によるスウェーデンの改革への試みが紹介されている。前者は企業の超過収益にのみ課税する法人税で、「消費」課税と整合的であり、後者は正常収益も含めて資本収益の全てが課税対象となる法人税で、「所得」課税と整合的である。筆者は、改革案の理論的・政策的背景を含めて分析し、改革の困難さを垣間見せる。

 二元的所得税や北欧諸国の税制については,その重要性にも関わらず,理論的な背景を含めて紹介した研究書は、わが国ではほとんど見かけない。その意味で,本書は貴重な研究書であり、わが国の税制改革論議にも大きな貢献をなしうることが期待される。税制改革の新しい潮流をその背景を含めて詳細に論じた本書の価値は非常に高く、わが国の税制改革論議でも大いに参考になると思われる。本書は、財政学、租税法の研究者のみならず、公共政策の研究者、政策実務者など幅広い層に読んでほしい書物であり、租税資料館賞の受賞に十分値する。