藤間 大順 著『債務免除益の課税理論』

藤間 大順 著
『債務免除益の課税理論』

(神奈川大学法学部助教)
(株)勁草書房 令和2年12月刊

 本書は債務免除益に対する課税の在り方を論じており、その全体は、第Ⅰ第1章から第3章までの第Ⅰ部と第4章と第5章の第Ⅱ部とに大別できる。第1部では債務免除益に対する課税の理論的根拠と課税されるべき債務免除益の範囲についての検討がなされ、第Ⅱ部では、第一部で検討した理論的根拠(債務控除アプローチ)の具体的な課税問題へ当てはめが行われている。内容を紹介すると、第1章では、債務免除益の課税についての先行する議論を整理するとともに、事業再生税制の解釈論を通じて、これらのアプローチの限界を指摘し、著者独自の新たな債務免除益課税理論として、債務控除アプローチを構築・提示する。第2章では、債務控除アプローチの正当性の根拠として、米国の租税利益の原則(Tax Benefit Rule)についての検討をする。著者は、この原則は日本の債権債務をめぐる課税関係にも妥当し、その一つの局面である債務免除益の課税関係においても、債務控除アプローチを援用することで整合的に説明しうるとする。第3章では、債務免除益課税の具体的な解釈論として債務免除益の年度帰属の問題を取り上げる。米国との比較検討の結果、日本の場合は、債務免除益の年度帰属は権利確定主義によるべきであるが、それは著者が提唱する債務免除益課税理論(債務控除アプローチ)とそれを補強する債務消滅益テスト(私法上の債務消滅時点を重視)により、確保できるとする。第4章では、解釈論として債務免除益の所得区分の問題を検討する。著者は二つの裁判例(ノンリコース債務免除事件、倉敷青果荷受組合事件)を取り上げて自己独自の分析を加えるが、ここでも所得区分の判定については債務の発生時から消滅時までの事実を考慮して債務控除アプローチにより行うべきとする。第5章で筆者は、本書を締めくくり、債務控除アプローチを理論的な根拠とした(所得税、法人税を包括した)広義のわが国事業再生税制に対する改革案を提言する。すなわち、「債務の消滅があっても債務超過部分または債務超過が確実な金額の現在価値分のうち租税属性と相殺された分を除いた残額分の債務免除益は発生しない」という基本原則の下で、現行制度を統一的なものに改変しようと試みる。

 本書では、先行研究に関連する内外の文献について、著者と異なる立場の者を含めて網羅的な検討を行い、税法のみならず関連する私法領域における議論も丁寧に検証している。債務控除アプローチという著者独自の論説を債務免除益の課税の様々な局面(債務免除の時期、債務免除益の所得区分、さらには広義の事業再生税制の立法的解決策等)にあてはめて、その妥当性を論じた部分は説得力があり、見事である。論理性、実証性さらには独自性も兼ね備えた読み応えのある本格的研究書として十分に評価しうる。