小西 隆太 稿「所得税法37条1項の解釈に関する一考察―時代に則した新たな必要経費概念の提言―」

小西 隆太 稿「所得税法37条1項の解釈に関する一考察―時代に則した新たな必要経費概念の提言―」

(関西大学大学院 院生)

 所得税法37条1項の必要経費規定は、昭和40年の改正から50年以上経過したが、その間に収入や生計のあり方が多様化し、過去には想定されなかった費用も登場しており、従来の必要経費の範囲や必要経費該当性要件等をめぐる議論は、いずれも今日の時代にそぐわなくなっているのではないだろうか。かかる現状認識に基づいて、筆者は、現代ネットビジネスにおける代表例である「YouTuber」や必要経費該当性要件をめぐって争われた「弁護士会役員必要経費訴訟」などを、必要経費概念を再検討するための素材として取り上げ、今の時代に即した必要経費概念を提唱しようとする。

 本論文は5章で構成される。第1章では所得計算に際して総収入金額から控除される必要経費の意義を検討し、その範囲の決定については純資産増加説が基底にあることを指摘する。第2章では必要経費規定の制定後50年を経過した現在まで純資産増加説に基づいてその範囲が漸次拡大してきたが、現代のネットビジネスにおける収益モデルやそれに伴う費用についてはその実態に即して、従来と異なる対応が必要であると指摘する。それを踏まえ、第3章では必要経費の内包を形成する所得税法37条1項及び費用収益対応の原則について考察し、現状に即した解釈を提示している。第4章では別段の定めとしての家事費・家事関連費と必要経費の関係について考察し、一体としての経済活動の実態がありそのなかでの支出であれば必要経費と認める必要性を説いている。第5章では従来の必要経費該当性の要件、要素及び判断基準を抽出して、その妥当性の再検討を行い、現状におけるその非合理性を指摘して現代のネットビジネスに適合する基準を提示する。

 本論文では、従来の学説では多様化したビジネスモデルにはもはや対応できなくなっていることを指摘して、その観点から時代に即した新たな必要経費の範囲についての解釈指針を検討する。その結果、必要経費の範囲を決定する上での重要な要素は、費用収益対応の原則や必要経費該当性要件ではなく、個々の事業について「一体の経済活動の実態」を把握した上での、一体の経済活動にかかわる支出であるか否かが今後の判断基準となると主張する。その意味で、本論文は、現代型の経済活動の場面に即応する必要経費概念を追求した挑戦的研究であると言えよう。本論文は、明確な問題意識に基づいて、先行研究の丹念な解読と、これまでの議論の整理を経た上で、現代のネットビジネスにおける収益モデルについても合理性を有する必要経費概念を描き出そうとする。従来の研究に対する十分な目配りと同時に、新しい時代における必要経費に該当するかどうかの具体的な判断基準を導き出そうとしている点で本研究には顕著な独創性が認められ、高く評価できる。

論 文(PDF)・・・・・・1.46MB