新林 宏彦 稿「後発的事由に関する法人税法上の損益帰属時期の一考察―制限超過利息の返還債務確定の問題をはじめとした裁判例の分析を中心として―」

新林 宏彦 稿「後発的事由に関する法人税法上の損益帰属時期の一考察―制限超過利息の返還債務確定の問題をはじめとした裁判例の分析を中心として―」

(千葉商科大学会計大学院 院生)

 本論文では、後発的に課税要件事実に変動が生じた場合に、何時の時点でどのような方法により調整するかという論点につき、法人税を中心に考察しようとする。

 本論文の構成は5章からなる。第1章では、国税通則法は更正の請求という遡及修正手続を納税者に提示するが、課税標準等及び税額等の計算という課税の実態要件が法人税法に定められていることから、現年度調整か遡及修正の判断には、法人税法の規定に照らして検討せざるを得ないことを確認している。第2章では、判例等の分析を通じて、現段階で用いられている判断原則を整理している。ここは、①不法行為等による損害に係る事案、②納税者による経理処理の誤謬等に係る事案、③特別の更正の請求に係る事案を取り上げ検討するが、③については現年度調整では納税額減少という救済が図れないことから、現行判断原則の妥当性を検証する必要があるとする。第3章では、破産会社における制限超過利息返還債務確定の問題について、公正処理基準や企業会計準拠主義、法人税法独自の観点などから検討を加え、現年調整を強制すことが、解釈論の観点から妥当か否かを考察している。第4章では、本論文のテーマに対する筆者の私見がまとめられている。

 筆者は、クラヴィス事件の最高裁判決が採用する過年度遡及会計基準に基づく遡及修正処理は公正処理基準に該当しない(前期損益処理のみが公正処理基準である)という見解は妥当でないとして高裁判決を支持し、継続企業の前提が崩れた企業(破産会社等)にも一律に現年度調整を求めて納税額の修正を行わないような結果は是正すべきであるとする。さらに筆者は、破産会社等に対しても一律に現年度調整を要求することの不具合を是正するため、欠損金の繰戻還付制度の適用を提言する。

 クラヴィス事件の最高裁判決が、現年度調整を要求したことは揺るぎのない事実であるが、現実的な対応の仕方として欠損金の繰戻還付を用いるという提言は、この問題について言及する識者の多くは継続企業の前提が崩れた場合における問題点を指摘するに留まっている中で、新たな一石を投じたといえよう。その論旨には説得力があり、十分実行可能な議論であると評価しうる。議論を展開するに当たって、筆者は多くの学説や文献を参照し、関連する判例を丁寧に考察すると共に、その内容を実に良く整理して論じている。公正処理基準の解釈としての限界を感じた筆者は、立法による対応の必要性を指摘するが、実際に提示している具体的な立法対応策としては、現行の法人税制を踏まえてできるだけ現実的な立法案を示すよう模索する。その姿勢は極めて真摯であり、その提言内容と共に、租税資料館賞にふさわしい評価を受けるに値する。

論 文(PDF)・・・・・・1.08MB