瀧 翔太 稿「キャプティブと外国子会社合算税制―保護セル保険会社を中心に―」

瀧 翔太 稿
「キャプティブと外国子会社合算税制―保護セル保険会社を中心に―」

(立命館大学大学院 院生)

 本論文で筆者は,各国のCFC税制におけるProtected Cell Captive(保護セル・キャプティブ)の取扱いを比較した上で、日本の外国子会社合算税制において望ましい保護セル・キャプティブに対する課税のあり方を探ろうとする。筆者は、結果として、英国の「個別アプローチ」がわが国にとってふさわしいのではないかと考え、外国子会社合算税制上、セルを外国関係会社に含めるよう提案する。

 本論文は、4章で構成されている。第1章では、キャプティブの諸形態を紹介し、キャプティブ法人の内部に法的に独立した独立に事業を行う法人格のない倒産隔離財産である組織(cell)を設ける新しい形態のキャプティブ(保護セル・キャプティブ)のシステムを概説する。第2章では、日本の外国子会社合算税制を概観した上で、基本的にエンティティ・アプローチをとる日本の外国子会社合算税制においては、保護セル・キャプティブはその適用対象とならず、国外への利益移転に利用される可能性があるとする。第3章では、法人該当性のみで判断するオーストラリアの税制(「文理解釈アプローチ」)、事業体規制に基づいて判断する米国の制度(「包括的アプローチ」)、および、リスク移転という機能に基づいて判断する英国及び南アフリカの制度を紹介している。第4章では、諸外国のアプローチを評価し、英国の機能的アプローチ(「個別アプローチ」)を日本でも取り入れるよう主張する。

 本論文は,従来あまり取り上げられることがなかった保護セル・キャプティブの税制上の取扱いを論じており、極めて高い斬新性がある。諸外国のCFC税制と保護セル・キャプティブの取扱いをバランス良くかつ的確に紹介していることからも、日本の外国子会社合算税制に対する有益な示唆を与える作品と言えよう。注記にも十分神経が行き届いているなど、学術論文としての形式を十分に整えており、外国文献なども丹念に読み込み調査している様子が窺われ、論文作成に当たって筆者が神経を使い努力をした跡が十分示されている。

 ただ、取り扱っている問題の性質からして、この論文では、書き切れなかったことも多く残されているのではなかろうか。英国CFC税制に対する筆者の理解の仕方にも若干疑問がある。しかしながら、積極的に新分野の問題を開拓し、取り組もうとする筆者の意欲には、特筆すべき点がある。この作品で示されている筆者の能力からして、今後の研究の発展可能性が十分期待できる。それらのことを総合的に判断し、本論文は租税資料館賞の授与に十分ふさわしい作品であると評価する。

論 文(PDF)・・・・・・980KB