中野 誠人 稿「相続放棄が行われた場合の国税徴収法39条の適用可否―遺産分割協議による相続放棄との比較を手掛かりとして―」

中野 誠人 稿「相続放棄が行われた場合の国税徴収法39条の適用可否―遺産分割協議による相続放棄との比較を手掛かりとして―」

(大阪経済大学大学院 院生)

 本論文は、相続放棄および現行法上は相続放棄と同様の結果をもたらす遺産分割とを比較検討することで、相続放棄が国税徴収法39条の第二次納税義務の適用対象となるか否かを考察する。論文は4章からなり、第1章では民法上の相続放棄と遺産分割の法的性質の違いについての検討を行い、それぞれの法的性質を明らかにする。第2章では、第二次納税義務とりわけ国税徴収法39条の適用射程との関係で相続放棄と遺産分割が「第三者に利益を与える処分」に該当するかどうかを確認する。第3章では、相続放棄と遺産分割の法的性質をめぐって争われた裁判例を取り上げて私法上の判例法理を明らかにすると共に、私法上の判例法理に依拠したと見られる租税判例を取り上げ、租税債権が問題となる第二次納税義務において、私法(民法)上の判例法理に依拠することの是非を問う。第4章では、租税実体法と租税手続法の関係を明らかにした上で、相続放棄と遺産分割の租税実体法上の取り扱いについての検討を行う。筆者は、相続放棄については、当初から相続人でなく財産の移転もないから課税関係が生じないとされる一方、遺産分割については、租税実体法上課税されるケースもありその取り扱いが一様ではないから、租税手続法においても両者を同一に扱う必要はない、とする。以上の検討を通じて筆者は、①相続人の自由意思に委ねられる相続放棄と財産権を目的とする法律行為である遺産分割とはその性質を異にする、②国税徴収法39条の適用には非常に慎重な判断が求められ、その射程はそれほど広くない、③租税判例における私法判例法理の準用は可能である、④相続放棄と遺産分割は、租税実体法上異なる取り扱いがなされており、国税徴収法39条の適用に際しても両者を同一に解する必要はない、との考えを明確にし、相続放棄は国税徴収法39条の適用対象にならないとの結論を示している。

 第二次納税義務をめぐっては、適用要件の難しさも一因となり、近時においても紛争が絶えない分野の一つである。筆者は、相続放棄や遺産分割と第二次納税義務との関係いう租税法的立場からは従来論じられることが少なかった問題に真正面から取り組み、理論的考察にも果敢に挑んで、すべての場面で自らの見解を明確に示そうとしている。もっとも、議論の過程では、租税法上の議論だけでなく民法上の判例、学説にその議論の多くを委ねざるを得なかったが、それはそれで問題の性質上、やむを得ないところでもある。個々の論点については、かなり掘り下げた検討を試みており、その労を惜しまぬ努力は十分評価して良い。最初から最後まで筆者の問題意識は明確で、考察の結果到達した結論も、筆者の統一した考えに沿って展開する議論と整合している。全体として説得力のある読み応えのある好論文として評価される。

論 文(PDF)・・・・・・1.0MB