細川 貴徳 稿「企業会計の変容と法人税法の対応―解釈論と立法論の双方に焦点をあてながら―」

細川 貴徳 稿「企業会計の変容と法人税法の対応―解釈論と立法論の双方に焦点をあてながら―」

(立教大学大学院 院生)

 本論文の構成は次の通りである。

 まず第1章「税法と企業会計の交渉」では、確定決算主義の規定は昭和42年度の公正処理基準の規定と同時に創設され、法人課税が開始された明治32年から約70年の歳月が過ぎ、その間での会計と税とでの議論が蓄積され、その両社の変遷を辿ることによって、時代別による会計と税の関係を整理している。第2章「公正処理基準の立法趣旨と解釈論」では、公正処理基準の立法趣旨、解釈論の萌芽、税務会計学者と租税法学者の意見と、その意見の対立で落とし込むことが困難であった第三の解釈をあげて、多角的に整理し・分析を行っている。第3章「租税判例による解釈」では、公正処理基準の規定に関する裁判例を分析し、その適用要件としてのメルクマールを再検証している。終章では、公正処理基準の立法に付随する諸論点をあげ、本論文をもとに展開される今後の研究課題を論究している。

 明治32年に法人税が創設されて以来、昭和42年度の税制改正で明文の規定が設けられる以前においても多くの裁判例では、(企業)会計処理の基準でいう「公正処理基準」と同義の文言が「公正処理基準」の意義として示されてきた。そういう意味では公正処理基準の条文は確認規定であると理解されようが、一方では、昭和42年度の税制改正以前においては公正処理基準が必ずしも支持されていなかったことから、創設規定であるという主張も見られた。本論文では、税務会計学者と租税法学者との対立した意見を踏まえて、膨大な裁判例を紹介しつつ、公正処理基準をどのように定義づければよいかについて、詳細な検討がなされている。本論文では多くのページ数を用いて詳細に検討しており、その議論の精緻さには目を見張るべきものがある。それと共に、論点が明確に整理されている点も注目される。公正処理基準が立法化された後での公正処理基準関係の裁判例も考察の対象としつつ、公正処理基準の役割について深く洞察する。

 平成30年度の税制改正では、その前年の収益認識基準の開発を受けて、法人税法第22条の見直しと同法22条の2が創設されたが、筆者は、収益認識基準によって公正処理基準の立ち位置が変わっていくことを、これからの公正処理基準の行方を占う意味での大きなエポックとして捉える。

 本論文の終章の第2節「今後の課題」では、今後の公正処理基準と「別段の定め」のあり方について触れている。筆者は、平成17年からの企業会計のコンバージェンスプロジェクトへの法人税法の対応と、その経過での収益認識基準の開発を取り上げているが、そこで展開する今後の企業会計との関係のあり方についての筆者の持論には目を見張るものがある。この問題については少なくとも1章を設けて研究すべきであったし、むしろこの「研究」を本論文のメインテーマとしても、その功績は多大であったといえよう。そういう意味では将来的な期待を寄せざるを得ない部分もあるが、今後の公正処理基準のあり方と別段の定めとの関係を問う有力な公表論文として、現状においても高い評価を与えることができる。

論 文(PDF)・・・・・・1.56MB