松嶋 良太 稿「事業所得における期間対応費用の必要経費算入要件について―直接性の意義を中心に―」

松嶋 良太 稿「事業所得における期間対応費用の必要経費算入要件について―直接性の意義を中心に―」

(兵庫県立大学大学院 院生)

 所得税法37条1項は、売上原価等については収入金額との直接の対応関係を求めているのに対して、販売費や一般管理費等については、所得を生ずべき業務との直接的な対応関係までは求めていない。ところが、執行上の必要から、これまでの学説や裁判例では業務関連性に「直接性」が付与されてきた傾向があることを筆者は指摘し、先行研究において業務との関連性に「直接」が付与される根拠や、「直接性」の意味および機能を明らかにすると共に、その位置付けを探ろうとする。

 本論文は4章で構成される。第1章では、わが国における必要経費規定の創設(明治20年)から現行規定の形となった昭和40年所得税法の前文改正に至る沿革を概観し、必要経費とそれに関連する規定の構造や範囲など、制度の概要を明らかにする。第2章では、必要経費の算入要件や判断基準として先行研究が提示する業務関連性、業務遂行上の必要性、通常性などの判断基準の根拠と意義を明らかにした上で、家事関連費等をめぐる必要経費算入要件や判断基準などを検討・紹介する。第3章では、先行研究を参考に、期間対応費用における「直接性」の意義や、直接性の根拠・意味などを検討する。第4章では、弁護士役員事件東京高裁判決およびそれ以降の判決を分析して検討した結果、「直接的業務関連性」が要件として求められないとしても、「合理性」や「社会通念上」という言葉が「直接性」と同様の機能を持ち、必要経費の範囲を制限していると指摘する。以上の検討と考察の結果、結論として筆者は、①事業と家計が必ずしも明確に分離されていない個人の場合は事業支出と消費支出を厳格に区分する基準が必要なので、目的論解釈によって期間対応費用の必要経費算入要件に直接性を求めている、②先行研究では、「直接性」を、「収入金額との直接関係性」と「業務との直接関連性」の二つの意味で用いている、③「直接性」の機能は、支出の目的に客観性を担保し、ときに無制限に広がる恐れがある必要経費の範囲を制限することにある、④必要経費算入要件としての「直接性」は、主観的判断である業務関連性や業務執行上の必要性に客観性を担保するための補助的な要件(判断基準)として位置づけることができる、等を指摘する。

 本論文は、必要経費に関して、近年議論の対象とされるようになった課題に対して、堅実で手堅い手法でもって挑んでいる。先行研究を丹念に分析して、制度の概念的かつ法理論的な仕組みを明らかにしようとする試みや、関連する条文を実務でどのように解釈運用しているのか追求する姿勢などは、高く評価できる。多くの論文に見られる研究スタイルとは異なる手法ではあるが、結論に導く論理の展開の仕方は説得力があり、成功していると言えよう。

論 文(PDF)・・・・・・1.14MB