松本 照生 稿「個別対応方式の用途区分に係る判断基準の再検討―仕入税額控除における書類保存方式の転換を素材として―」

松本 照生 稿「個別対応方式の用途区分に係る判断基準の再検討―仕入税額控除における書類保存方式の転換を素材として―」

(兵庫県立大学大学院 院生)

 本論文は、書類保存方式の転換を素材として、「個別対応方式」の用途区分に係る判断基準を考察することを目的とする。筆者は、客観性確保の観点、的確な判断の必要性の観点、仕入税額控除は期間税に類似する性質を有するとの観点から考察し、解釈論と立法論の両面から用途区分に関する判断基準を検討している。

 現行の消費税法30条2項1号の規定は、用途区分の判断に必要な具体的基準を示していないので、仕入税額控除による適正な課税の累積排除を可能にするものか疑問であるばかりか、納税者の意図的な用途区分の操作によって不適切な税額控除がなされるおそれや、課税庁による用途区分の否認によって納税者の予測可能性が害されるなどの問題が生ずる。さらに、令和5年10月から、適格請求書等保存方式(いわゆる日本型インボイス方式)が施行され、請求書に記載された税額の積み上げ計算が行われるが、このことが個別対応方式の判断基準にいかなる影響を与えるのかを検討する必要もある。本論文は、こうした問題意識をもって執筆されている。

 従前の裁判例等や学説を検討すると、用途区分の判断基準としては、①仕入時に用途を確定させる方法と、②仕入時から課税期間末までの期間中の状況を踏まえて判断する方法とがあるが、筆者は、消費税法30条2項1号所定の「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当するかどうかは、仕入時から課税期間末までの一定の期間の状況を踏まえて判断した方が客観的かつ適正に行うことができるとして、後者の方法を支持している。さらに、現行法の規定の文言では、用途区分の判断をどの時点で行うかについては明確でないので、上述した一定の期間の状況に基づき判断する旨の法改正を行うべきであると主張する。

 筆者は、明快な問題意識に立って、必要な先行業績を網羅的に調査・検討している。それぞれの資料や判決についても、丹念な考察をすると共に、堅実に自己の論理を展開し、その結果として、優れた作品に仕上げている。筆者は、欧州付加価値税との比較において実証的な検討を加えることにより、現行消費税法における請求書等保存方式と、同法改正により導入予定の適格請求書等保存方式との両方について、用途区分を個々の取引時に確定する必要はなく、課税期間末までの一定期間を通じて判断した方がより合理的であるとする。そのような欧州付加価値税への目配りをしながら実証的検討を加える真摯な研究態度なども高く評価して良い点である。本論文は、租税資料館賞を受賞するのに十分値する。

論 文(PDF)・・・・・・1.29MB