村井 圭介 稿「共同事業の所得区分―組合契約推認アプローチによる事業所得該当性―」

村井 圭介 稿「共同事業の所得区分―組合契約推認アプローチによる事業所得該当性―」

(青山学院大学大学院 院生)

 本論文は、当事者間の合意によって共同事業から利益や損失の分配を受けた場合の所得区分を論じようとする。

 本論文は、7章で構成されている。その第1章では、平成30年の東京地裁判決から出発して、当事者間の合意に基づく所得区分の判断基準をめぐり法的問題があることを指摘する。第2章は、裁判例から、事業所得の帰属に関する事業主基準により採用された直接認定アプローチと組合契約アプローチとを取り上げて、後者はパス・スルー課税に連なるものであることを指摘する。この後者を受けて、第3章において、「共同事業体の法的性質とパス・スルー課税」が位置付けられる。匿名組合と対比して、任意組合にあっては、各組合員が事業から生じるリスクを負担するので、本質的に共同事業性を有しているとする。第4章は、名古屋地裁の航空機リース任意組合事件判決から、所得区分の判断要素たる「共同事業性」につき示唆する点を導出し、特定組合員の不動産所得に係る損益通算等の特例制度の創設が所得区分の判断に与える影響を論じている。

 第5章は、最高裁の航空機リース匿名組合事件判決から、①共同事業構成員の所得区分を共同事業運営者の営む事業内容により判断するには、当事者の合意の内容ないし契約関係に共同事業性があることが必要であり、②外形的に運営者の単独事業とみえる関係であっても、構成員が事業の意思決定に関与するなどの権限を有し事業上のリスクにつき無限責任を負う場合には共同事業性を備えている、旨の示唆を導く。第6章は、学説における統一的所得分類説と個別的所得分類説との各問題点を挙げる。第7章は、「組合契約推認アプローチ」を提言する。①当事者間に共同事業の合意があることをもって成立する「広義の組合契約」の認識、②構成員が共同事業運営者と共同事業に対する「支配とリスク」を共有している場合に共同事業性を備えた組合契約と推認、③パス・スルー課税の適用、の3段階からなるとし、東京地裁平成30年判決と想定事例とにより検証する。

 本論文は、明確な問題意識の下に、複数当事者による事業収入の人的帰属に関する判断基準から示唆を得て、所得区分の判断基準へと発展させている。意欲的で説得力のある作品である。それと同時に、論旨の展開に合わせて文献や裁判例も巧みに活用されている。事業運営者と構成員との間において、支配の権限とリスクの負担とが共有されているかを判断基準とする点にオリジナリティが認められ、大いに評価することができる。生活共同体(夫婦関係、親子関係、事実婚関係など)を基盤とする事業については、必ずしも妥当しないとして、射程範囲への目配りもなされている。特定組合員の不動産所得に係る損益通算制度等の特例制度の創設をもって、共同事業一般の所得区分解釈の根拠にしている点は、やや早計の感を否めないが、論文全体の価値を著しく減じるものではない。租税資料館賞受賞に値する好論文である。

論 文(PDF)・・・・・・1.42MB