東江 杜羅布 稿「源泉徴収制度の法的問題に関する研究―支払者の源泉徴収義務の範囲を中心に―」

東江 杜羅布 稿 (専修大学大学院 院生)
「源泉徴収制度の法的問題に関する研究―支払者の源泉徴収義務の範囲を中心に―」

 本論文は、源泉徴収制度において支払者に課されるべき合理的な源泉徴収義務の範囲を判例・学説に照らして検討することによって、支払者(源泉徴収義務者)の権利利益の保護を実現しようとするものである。その構成は、「はじめに」、第1章「源泉徴収制度の概要」、第2章「源泉徴収制度をめぐる三者間の法律関係の整理」、第3章「支払者の源泉徴収義務の範囲を争点とする判例の検討」、第4章「源泉徴収義務の範囲の法的限界―租税法の基本原則の観点からの考察―」、「結論」となっている。その結論は、源泉徴収制度における国・支払者・受給者の三者間の法律関係について、国と受給者との間に租税債務関係を認め、支払者が行う源泉徴収手続と受給者が行う確定申告手続とに分けて納税することができるようにすることによって、支払者に予測困難な源泉徴収義務が課される場合における支払者の義務負担を軽減するとともに、国と受給者との間で問題を直接解決できるようにする、というようなものである。

 本論文の扱う問題はいわば「古くて新しい問題」であり、最近でも、非居住者の国内不動産譲渡対価に係る源泉徴収事件や給与支払者による債務免除益源泉徴収事件で改めて注目を集めているが、源泉徴収制度の本質的問題の1つである。とりわけ、企業の経済取引がグローバル化・デジタル化の進展とともにますます複雑となり、源泉徴収制度もそのような環境の中で、ますますその適用に関して難題に直面してきている。このような状況に鑑みると、本論文には、実際上も研究の意義は十分に認められる。

 筆者は、最近の裁判例だけでなく源泉徴収制度に関する重要な基本判例についても十分に検討を加え、合理的な源泉徴収の範囲をどのように構築すればよいかを考察しているが、この点については、国税通則法2条5号でその定義が規定されている「納税者」を本来の納税義務者である受給者であると解することにより、国と受給者が直接の債権債務関係に立つことを認め、その上で、支払者に予測困難な源泉徴収がされる場合を源泉徴収の対象範囲外とすることについては、支払者の予測可能性の確保、受給者に対して確定申告手続の機会を与えるという租税公平の原則の観点からも、そのような解決を図るべきであるとし、かつ、源泉徴収義務の範囲を法的に明確にし、租税行政庁の恣意的判断を遮断することが必要であると述べている。
 本論文の構成や論旨の展開はオーソドックスなものであり、個々の論点や関連する判例・学説の検討は丁寧かつ適切である。結論もあり得る解決策の1つであるとみてよかろう。

論 文(PDF)