池尾 智史 稿「一時所得の課税要件に関する一考察―馬券裁判を中心として―」

池尾 智史 稿 (京都先端科学大学大学院 院生)
「一時所得の課税要件に関する一考察―馬券裁判を中心として―」

 本論文は、一時所得という所得の性質は何か、独立して所得区分とする必要性はあるのかという問題について、コンピュータソフトを利用して大量反復的に馬券を購入して得た所得の一時所得該当性が争われたいわゆる馬券裁判を素材として検討したものである。

 第1章では、所得区分の概要と一時所得の意義及び沿革を概観し、一時所得の定義がどのような変遷をたどってきたのかを確認している。第2章では、一時所得該当性の判断基準に関する学説及び馬券裁判前の判決を整理し、1回の行為が連続反復するような「量的な継続的行為」について争われた裁判では「所得源泉性の有無」が判断基準として用いられる一方、地位や職務に基づく1回の行為のような「質的な継続的行為」について争われた裁判では「非継続性」及び「非対価性」が判断基準として用いられたことを明らかにしている。
 第3章では、馬券の払戻金の所得区分をめぐる5つの裁判を比較検討し、全ての年度で利益が出ている事案では雑所得と判断され、損失年度がある事案では一時所得と判断されていることから、「営利を目的とする行為」に該当するためには「利益の恒常性」が求められ、この「利益の恒常性」の有無によって所得の「偶発性の高低」を判断していると指摘している。したがって、馬券裁判における一時所得該当性の判断基準は「偶発性の高低」であり、非継続性要件及び非対価性要件はともに「偶発性の高低」を判断する基準であるとしている。さらに、馬券裁判では納税者の予測可能性、担税力、偶発性及び非継続性要件の4つの観点から問題があるとして、現行制度の枠内での解決策として、一定の要件下で外れ馬券の購入代金の控除を認める場合と、一律の源泉徴収方式を導入する場合を検討している。第4章では、一時所得は担税力が低いとする根拠について再検討するとともに、一時所得を廃止して雑所得に統一した場合に馬券裁判における問題点が解消されるかについても考察している。

 以上のように、本論文は、一連の馬券裁判の詳細な検討から一時所得該当性の判断基準の問題点を明らかにし、その解決策を提示したものであり、判例・学説を丹念に分析しており、租税資料館奨励賞に相応しい論文であると評価することができよう。

論 文(PDF)